若手研究が世界を変える!

【地球宇宙化学】

古環境復元

貝殻の炭酸カルシウムから、地球の46億年の環境変動を解き明かす

白井厚太朗先生

 

東京大学

理学部 地球惑星科学科(理学系研究科 地球惑星科学専攻)

 

 先生のフィールドはこの本から

チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る

大河内直彦(岩波現代文庫)

今、私たち人類が住んでいる地球環境は、非常に繊細なバランスの上に成り立っています。地球の仕組みがちょっと違っただけで、地球の歴史の歯車が少し狂っただけで、地球では人類は繁栄していなかったかもしれません。過去の地球を知れば知るほど、現在の地球が奇跡的な偶然の積み重ねの上に成り立っているということを、ひしひしと感じます。

 

この本には、そんな地球環境の変化の歴史について、研究者が読む専門書と同じレベルの内容が、わかりやすく、かつ面白く書かれています。

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 世界を変える研究はこれ!

貝殻の炭酸カルシウムから、地球の46億年の環境変動を解き明かす

研究は推理小説に似ている

研究することは、探偵が推理して犯人を捕まえるのに似ています。名探偵シャーロック・ホームズは、鋭い観察力で証拠を見つけ、幅広い知識を駆使して犯人を推理し、論理立てて犯行を証明します。

 

私は、貝殻やサンゴなど生物が作る炭酸カルシウムの殻の形・模様・化学成分などを調べることで、過去の地球環境がどのような様子だったのか、どのように変化してきたのかを調べる研究をしています。

 

観測記録がない頃の地球環境を調査

 

地球の歴史は、まだまだ多くの謎に包まれています。誕生後45億年間、地球は激動の環境変化を経て、今もなお、かつてない規模で姿を変えつつあります。しかし、人類が経験し記録できている地球環境の変化は、長い地球史のほんのわずかしかありません。

 

私が研究している「古環境復元」という分野は、観測記録がない時代の未知の地球環境を調査し、地球の歴史の謎を解明する研究分野です。

 

過去の環境変動から将来の予測を

 

「なぜ、どのように地球環境は変化したのか」という謎を解明するために、昔の環境を正しく記録している化石を発掘し、いろいろな知識を総動員して化石を調べて環境に関する情報を引き出し、その情報が正しいかを実験で確認し、環境変動を引き起こす仕組みや原因を解き明かします。

 

過去の環境変動を理解できれば、将来の予測にも役立ちます。まさに推理小説そっくりだと思いませんか。

 

そして、推理小説では謎解きのワクワク感や犯人を追い詰めるスリルが面白いのと同じように、ダイナミックな地球環境の謎を解明するのはとても興奮しますし、予想通りに地球の姿に迫れた時は名探偵になった気分です。こんな楽しさが中毒になるので、研究はやめられないのです。

 

マレーシアでのサンゴ礁の調査の様子。ダイビングをしてサンゴの種類を調べたり、古環境復元のために必要なサンゴや貝がらのサンプルを採取したりします。熱帯から極域まで、陸も海も調査します。いろいろな所に行けて貴重な体験ができるのは研究者の醍醐味です。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

気候変動の対策を立てるためには、今起こっている気候変動のうち、どの部分が人為起源で、どの部分が自然の変動なのかを、正しく把握することが必要不可欠です。海の豊かさを守るためにも同様のことが必要です。古環境学という研究は、人類が誕生する以前の環境を調べることで、人為起源と自然変動を正しく評価するのに役立ちます。

 


 きっかけ

◆テーマとこう出会った

 

高校生の頃は宇宙飛行士になるのが夢でした。しかし、身長が足りず宇宙飛行士は諦め、成績が足りなくて航空宇宙工学科にも天文学科にも入れず、紆余曲折を経て、地球惑星科学科に進みました。

 

いざ専門的なことを勉強してみると、宇宙について知りたかったことは既に調べられていることに気づきました。そして、海やダイビングが好きだという単純な理由で、大学院は東京大学海洋研究所に進学し、炭酸塩を使った古環境復元という今のテーマを選びました。

 

今では得意な分析手法を使うことで、宇宙に関する研究もしています。最初の夢とは少し変わってしまいましたが、好奇心に従って好きなことを選んできたおかげで、船に乗ったり南極に行ったりと貴重な経験ができ、楽しく研究をしています。

 

世の中は面白いことにあふれています。いろいろなことに興味を持って、それを極めると、知的好奇心を刺激する、ワクワクする世界が広がっていきます。

 

岩手県での化石の調査の様子。はるか昔に海で堆積した地層を調査して当時の環境を調べたり、詳細な環境情報を記録している化石を採取したりします。

 

 先生の分野を学ぶには

「地球宇宙化学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

3.地球・宇宙・数学」の「8.地球科学・古生物、惑星圏科学・宇宙塵」

 


 白井先生の研究・研究室を見てみよう

イギリスの南極調査船にのって調査をしたときの一枚。日本人は私一人。一度観測が始まったら昼も夜も関係なく、みんなで交代し助け合いながら調査が続きます。

 

 中高生におススメ

コンタクト

カール・セーガン、訳:池央耿、高見浩(新潮文庫)

高校生の頃、宇宙飛行士になりたいと思うきっかけになった本です。それまでは何となく「宇宙って面白いなあ」くらいにしか思っていませんでしたが、主人公の執着的な好奇心が印象的で、自分も人生をかけて宇宙の真理に迫りたいと思ったのを覚えています(結局は海の研究をしていますが)。映画化もされていて、そちらもお勧めです!

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Dr.STONE(漫画)

原作:稲垣理一郎、作画:Boichi(ジャンプコミックス)

小さい頃は勉強ができたり物知りだったりしても「かっこいい!」とは思われることが少ないかもしれません。でも、この漫画は「科学」が主役になる数少ない人気少年漫画で、科学を駆使して戦っていく主人公がかっこよく描かれています。

 

また、身近な生活がどれだけ科学に依存しているか、科学が生活の質の向上にどれだけ役に立っているかが簡単に理解できます。こういう「かっこいい科学者」が活躍する本が増えて、研究者のイメージが良くなるといいなあと期待しています。

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アフリカにょろり旅

青山潤(講談社文庫)

研究者って、暗い部屋にこもって実験したり、本に囲まれて一日中調べ物をしたり、っていうイメージではないでしょうか。実際の研究者は、想像よりもはるかに多様です。著者の青山さんは、東京大学大気海洋研究所でウナギやサケなどの研究をしています。この本は、ウナギ研究のための過酷なアフリカ調査の様子を面白おかしく書いた本です。研究者のイメージが、良い意味で覆ること間違いなし!

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