若手研究が世界を変える!

【細胞生物学】

ES細胞

従来より短時間で万能細胞を作りだす!再生医療への貢献を目指して

坪内知美先生

 

自然科学研究機構 基礎生物学研究所

 

 出会いの一冊

我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの

藤崎慎吾(ブルーバックス)

さきがけ研究で合成生物学に携わる先生方とご一緒させていただいています。生物の実態が完全に理解できたら、創れるようになっちゃうかも?化学や宇宙に興味があるあなたにも。

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 世界を変える研究はこれ!

従来より短時間で万能細胞を作りだす!再生医療への貢献を目指して

指を切っても生えてくる?細胞の「リプログラム」

イモリは手が切れても生えてきます。植物の枝を切り落としても、また枝をつけます。それなのに、人間はどうして指の先すら作り直せないのでしょうか。

 

哺乳類の場合、細胞が分化して体の特定のパーツを作り上げていく能力(=万能性)は、受精卵から体ができあがっていく過程で消失してしまいます。近年になって、体の細胞を採取していくつかのタンパク質や化合物を一時的に加えると、万能性を復活させられる(「リプログラム」できる)ことがわかっています。

 

しかしその確率は低く、できあがった万能細胞のクオリティも一定ではありません。なぜでしょう。答えはまだ明らかになっていません。

 

万能性細胞を「丸ごと」融合、リプログラムを加速

 

私たちの研究室では、リンパ球に万能性を持つ細胞を「融合」する実験によって、リプログラムの過程を研究しています。受精卵が何回か分裂したところで採取した細胞は万能性を持ち、胚性幹(ES)細胞と呼ばれています。

 

このES細胞とリンパ細胞を融合すると、1日もたたないうちに、リンパ細胞に万能性が現れはじめます。従来の手法では少なくとも数日かかると言われているので、とても早い反応です。万能性細胞を「丸ごと」融合しているので、リプログラムの開始効率が高まるのかもしれません。

 

たった1種類の万能細胞で再生できる

 

私たちの手法のミソは、リプログラムを起こすにはES細胞さえあればいいということです。また、これまでの研究から、マウスES細胞でもヒトの細胞をリプログラムできることがわかっています。

 

現在私たちは、細胞融合に誘導されるリプログラムの過程を顕微鏡で、リプログラミングの起こる条件や、その障壁となる事象を明らかにしようとしています。細胞融合を使って自在に細胞を操作する、そんなことを夢見て研究をしています!

 

近くの中学校で「細胞を操るしくみ」と題して授業をしたときの様子

 

 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

学生時代はパン酵母を使って、DNA修復や染色体構造の研究をしていました。技術の進歩でマウスやヒトの細胞を用いた研究が盛んになり、単細胞生物ではできない細胞の分化や、リプログラムに関わる研究がしたいと思いました。

 

リプログラム過程では細胞にストレスがかかりDNAにも傷がつきやすいのではないかと言われています。学生時代の経験も生かしながら、リプログラム過程での遺伝情報(DNA)維持の研究に貢献できたらと思っています。

 

◆学生時代は

 

中学時代から、とにかく、気になったことは、納得がいくまで調べたり考えたりしていました。大学院時代には頂いた研究テーマ以外にも、いつもいろいろなことが気になって仕方がありませんでした。

 

そしてそれらを趣味で追いかけているうちに、まさかの発見がありました。研究は予想できるレールを走るだけではつまらないと思っています。いつもいろいろなことに目を光らせ、耳を澄ませて研究を進めたいです。

 

◆出身高校は?

 

山口県立宇部高等学校

 

 先生の分野を学ぶには

「細胞生物学」学べる大学・研究者はこちら (※みらいぶっくへ)

7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」

 


 注目の研究室や研究の大学へ行こう!

香月康弘

鳥取大学 医学部 生命科学科/医学系研究科/染色体工学研究センター

【人工染色体の作成とその応用】

人工染色体を使えば細胞操作の幅が広がります。複雑な病気も治るようになるかもしれません!

香月康弘先生のページ


Oscar Fernandez-Capetillo

Karolinska Institutet/CNIO (Spanish National Cancer Research Centre) Genomic Instability Group

【DNA損傷応答とがん・老化】

DNA損傷応答の研究を幅広く展開しています。リプログラム過程とDNA損傷応答の研究にも早い段階で着手しています。

Oscar Fernandez-Capetillo先生のHP

 


 坪内先生の研究・研究室を見てみよう

本年度の研究室メンバー

細胞の動画を見て議論している様子

 


 先生の学部・学科で学ぼう

基礎生物学研究所は、総合研究大学院大学からの大学院生を受け入れています。学部がないということもあり、定員も少なく、一研究室あたりの学生数もそれほど多くありません。研究員・職員の人数が学生に対して多いので、大学院生でもベテラン研究者に触れる機会が多いです。

 

最初は追いつくまで大変だと思いますが、研究者を本気で目指す学生さんにとっては、非常に恵まれた環境でレベルの高い研究ができると思います。

 

 中高生におススメ

アメリカ大学院留学 学位取得への必携ガイダンス

ロバート・ L. ピーターズ(アルク)

大学院生になって、この本を熟読してからアメリカの大学院へ留学しました。今では少し事情も変わっているかもしれませんが、大学や研究所で研究者を目指す人の心がまえや、学位取得までの道のりが非常に細かく書かれています。研究がうまくいかない時、先生方との付き合い方など、どこに行っても参考になると思います!(古書で安く手に入ります)

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生物と無生物のあいだ

福岡伸一(講談社現代新書)

私の研究室の学生さんが声をそろえて推薦してくれた一冊です。

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 先生へ一問一答!

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

アメリカ合衆国。いろいろな国の人がいて、いろいろな考え方に触れることができるから。

 


Q2.印象に残っている映画は?

『グレイテスト・ショーマン』。自由で一生懸命な感じが印象に残っています。

 


Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

ちくわ詰め、印刷会社で雑誌のページを機械に運ぶアルバイトなど(腰が痛くなります)。何でもやりました。

 


Q4.研究以外で楽しいことは?

子どもが悩んだり喜んだりしながら成長するのを見ることです。

 


Q5.会ってみたい有名人は?

本庶佑先生。高校の先輩です。