若手研究が世界を変える!

【細胞生物学】

炎症の解明

生物の不思議を根底から理解したい~基礎医学の研究から

池田史代先生

 

九州大学 

生体防御医学研究所 医学系学府 炎症制御学分野

 

 出会いの一冊

死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発

門田隆将(角川文庫)

吉田所長は私の高校の先輩となります。そういう思い入れがある上での書評になります。最近、映画化もされています。2011年、東日本を襲った未曾有の大地震と津波による福島第一原発事故の際、吉田所長を中心に、どれだけの人がどのような気持ちで戦ったのかということが、詳細に描かれています。

 

某メディアによる悪意のある大誤報で、ひどいイメージ操作が行われましたが、本書を読むと、まさに「なんということか」という思いが募ります。誰にもぜひ読んでいただきたいお勧めの本ですが、問題にぶち当たって心が沈んでしまっている人には、一念発起の気持ちを持ってもらえるのではないかという点で、特におすすめします。

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 世界を変える研究はこれ!

生物の不思議を根底から理解したい~基礎医学の研究から

生物の理解には基礎知識の積み重ねが重要

私は世界を変えることを研究の1番の目的にしておりません。直接的に世界を変えることのできる仕事は、格好良いですし、人類に役に立ちますよね。重要です。

 

しかし「生物」は、そんな体裁をも吹っ飛ばすくらい興味深い研究対象です。生物には不思議がたくさん存在します。私が従事する基礎医学研究は、生物の持っている不思議を根底から理解したいという、強い興味と好奇心に由来するのだと思います。

 

生物には、時には単純に、時には難解に見えるシステムがたくさん存在します。その全体像を理解するためには、基礎レベルからコツコツと知識を積み重ねることがとても重要になります。

 

「なぜ」このシステム設計なのかを求め続ける

 

私の研究チームは、ヒトの細胞の中で分子がどのように修飾されて、炎症のシステムを制御しているかを理解するために、研究を進めています。

 

進化の過程で「なぜ」このようなシステム設計になってきたのか、もっと良い設計ができないのか、それとも自分に見えていない理由が何かあるのか、と不思議に対する様々な可能性を思い描きながら、その答えを求め続けることは、英知を携えて私たちができる究極のチャレンジです。

 

このような基礎医学研究は、たとえ直接的に世界を変えることはできなくとも、心の中では、いつかはきっと人に役に立つ発見につながればと期待もしています。

 

オーストリア科学アカデミー分子生物工学研究所(IMBA)で、初めての自分の研究室を主宰しました。グループリーダー仲間と共に「ユビキチンとその友達」というテーマで毎年開催していたシンポジウムでの一枚。いろいろな専門性をもつ研究者と生物の不思議を研究するのは楽しいことです。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

基礎医学の研究はすぐには役には立たないものですので、これらの目標番号には直接的には当てはまりません。ただし、将来的に、3「すべての人に健康と福祉を」につながることは可能性としては大いにあります。進化してきた生物の持つシステムは、個もしくは種を継続するために調整されてきたと考えられるからです。

 


 きっかけ&学生時代

◆テーマとこう出会った

 

絶対に分子生物学的アプローチを使った基礎医学研究をしてみたいと思ったきっかけは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の実験を体験したことです。その概念や業績がノーベル賞につながったこと、発見した研究者がとても変わった人だったことなどは知識として持っていましたが、特に心を打ちませんでした。

 

ところが「ほぼ」いろいろなものを混ぜる「だけ」で、できてしまったのです。基礎知識にひらめきを加えて新しく開発された手法が、ちょっとした訓練を受ければ誰にでもでき、基礎医学研究だけでなく、あらゆる目的に応用されるというところに大きな魅力を感じたのです。そういう分子生物学的な手法を開発しながら、生物の不思議を理解するという目的をもって研究を続けています。

 

◆中高時代

 

特に私自身に影響が大きかったのは、当時、日本の外、世界は広いと知る機会があったことです。学校教育やメディアから得られる情報とは大きく異なり、世界は広く、当然美しいばかりでないということを知ったことが、データをもとに真理に迫ることを大目的とする研究者として仕事をする活力の源流になっていると感じています。

 

◆出身高校は?

 

大阪教育大学附属高校天王寺校舎

 

ポスドクとして研究に従事したドイツのゲーテ大学Dikic研究室でのラボミーティング開始直前の様子。生化学や分子生物学的アプローチを使い、現在の研究テーマを見つけた場所です。ポスドク期間中にできた友人とは、10年以上の長い付き合いになっています。(池田先生は左から6番目、ボスは10番目)

 

 先生の分野を学ぶには

「細胞生物学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

7.生物・バイオ」の「21.分子生物学・細胞生物学・発生生物学、生化学(生理・行動・構造等 基礎生物学も含む)」

 


 池田先生の研究・研究室を見てみよう

池田研究室HP

 

Fumiyo Ikeda : Ubiquitin lines up for action (JCB)

 

今を輝く女性研究者の横顔 (九州大学医学部生命科学科 受験生向けサイト)

 

◆Twitter:https://twitter.com/ikedaresearch

 

オーストリアから九州大学へ移り、池田ラボは一からの再出発となりました。九大でのチームの立ち上げから携わってくれている最初のメンバー達とともに。これからのチームの発展が楽しみです。

 

 先生の学部・学科で学ぼう

九州大学生体防御医学研究所は、研究所の名前からは想像しづらいかもしれませんが、マウスモデルから構造学まで広い範囲の専門性を持つトップレベルの研究室により構成されています。ですので、特定の科学的な課題に対しても、様々なアプローチを利用して、協力しながら研究を進めることが可能です。

 

共同研究は、同じ研究所や学部で行わなくても良いのですが、やはり近くに専門家がいることにより得られる情報量や、学ぶことの多さから得になることが多く、とても楽しいです。

 

 中高生におススメ

海賊と呼ばれた男

百田尚樹(講談社文庫)

何のために仕事や課題をこなしているのかが、よくわからなくなってしまった人におすすめです。出光佐三をモデルとした主人公の生き様と、出光興産がモデルの会社の発展過程が描かれています(映画化もされました)。

 

主人公のように頑張りたいと目標を持つもよし、一生懸命に貢献をする人への感謝の気持ちを持つもよし。どん底状態の戦後の日本がどのように成長してきたかを理解するための重要な情報でもあります。感動もので、読後はぐったりします。人生は一度きり、自分の生き方がどのように社会に影響を及ぼすかということを考えるのにも、とても良い本です。

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風の中のマリア

百田尚樹(講談社文庫)

なんと主人公がオオスズメバチの小説です。生物の不思議を感じながら、生態系の厳しさについて学ぶことができます。感動する内容の小説でありながら、女王バチや働きバチが、またハチの性が、どのように決定されるのかについての遺伝学的な図解まで盛り込んであります。

 

とてもユニークな設定で、純粋に小説として楽しむことができるだけでなく、生物に対する興味まで掻き立てられるという秀逸な小説です。知的好奇心が強い人、小説を通じて生物の不思議に触れてみたい人におすすめです。また、本書から生物学について興味を持たれたら、さらに、いろいろな生物の不思議について調べたり考えてみたりしてもらえれば、とても良いのではないかと思います。

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 先生へ一問一答!

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

数学。ただし、学問を突きつめるには自身の能力不足である可能性は高いです。

 


Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

台湾。歴史的背景を考えると、実際に暮らして理解してみたいと思うから。

 


Q3.大学時代の部活・サークルは?

大阪大学体育会水泳部。記録的には大した選手ではありませんでしたが、チームメイトから学ぶことが多かったです。

 


Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

誰一人泳ぎに来なかった、ある企業のプールの監視と水質管理の夏休み中のバイト。当時、水泳部の卒業生からはいろいろなバイトを紹介されましたが、これもその一つです。 

 


Q5.研究以外で楽しいことは?

ピアノを弾くこと(かなり下手)。音楽理論を学ぶ時間的余裕がほしいです。