【科学社会学・科学技術史】

昆虫観

日本人は昆虫が好き?日中韓の文化を比較

保科英人先生

 

福井大学 

教育学部 学校教育課程 中等教育コース(教育学研究科 学校教育専攻)

 

 出会いの一冊

クワガタにチョップしたらタイムスリップした(漫画)

漫画:下田将也、原作:タカハシヨウ(シリウスKC)

本作品はネット上に公開された楽曲を皮切りに、のちにライトノベル、そしてコミック化された作品です。とにかく物語やキャラクターの設定が独特です。主人公は女子高生・淡路なつみで、趣味はクワガタ飼育。ヘリウムと名付けたヒラタクワガタにリボンをつけてやるほどの溺愛ぶりです。彼女はある日ふとヘリウムにチョップしたら、 50 年後にタイムスリップしてしまいます。 

 

物語の面白さもさることながら、この作品には日本人のクワガタ観が巧みに描かれています。バトルゲームとは違った観点で、日本人とクワガタとの関係を知ることができます。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

日本人は昆虫が好き?日中韓の文化を比較

清少納言は、クツワムシが「うるさくて不愉快だ」

「日本人は虫が好きな民族だ」。こんな誇らしげな言葉を聞いたことはありませんか。カブトとクワガタはペット昆虫として大人気です。来日した外国人の中には「日本人は虫が好きだねえ」と、日本人の昆虫愛は自分たちとは違う、と感じる人もいます。 

 

しかし、日本人と昆虫との関係を今一度検証すると、「日本人は本当に世界でもずば抜けた昆虫好きな民族なのか」という疑問がいくつも出てきました。

 

例えば、日本人の昆虫愛が示されていることで有名な『枕草子』。清少納言は第41段「虫は」で、スズムシやマツムシを「いとあはれなり」と好意的に見ていますが、第205段「笛は」で、同じ鳴く虫であるはずのクツワムシに対して「うるさくて不愉快だ」と切って捨てています。対昆虫感情との点で見れば、清少納言は「どこにでもいそうな日本人女性」の一人でしかありません。

 

鳥には愛情を抱くのに

 

現在の日本人は、トキやコウノトリの鳥類に対しては強い愛情を抱きますが、同じ絶滅危惧種でも、昆虫に対してはさほど関心を示しません。これは科学史、動物保全学史上の厳然たる事実です。

 

また、中国や韓国の昆虫に関連した文化(例えばペット昆虫飼育やアニメに登場する昆虫など)を調べますと、日本と共通の発想が多いのです。科学史的な観点で文化諸作品の昆虫の調査から、「人類皆兄弟」との単語が浮かび上がってきました。私は日本人の昆虫感情を過大評価せぬよう、再検討する必要があると考えています。

 

韓国・ソウル市明洞にて(2018年12月18日撮影)。

韓国ではチョウを店の看板にしたり、広告にしたりすることが珍しくありません。

韓国人のチョウへの親近感がうかがえます。

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「東アジア地域における昆虫観の科学史的研究」

詳しくはこちら

 

中国・広州市の商店街にて(2018年9月20日撮影)。

多くの自転車がチョウの模様のかごを付けていました。

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研究室の風景。

文化昆虫学は、昆虫の標本だけでなく、オモチャの類まで全て研究対象となります。

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

Summer Pockets(ゲーム)

VisualArt's

最初は物語が軽快なコメディ路線で進むも、やがて壮大かつ感動的な結末を迎えるビジュアルノベルです。加えて、世界の様々な民族のチョウ観が凝縮されて表現されており、文化昆虫学上の重要資料です。



のんのんびより(アニメ)

川面真也(監督)

ド田舎を舞台に、4人の少女が様々な自然界の生き物たちと触れ合います。「犬猫カワイイ」との単純な動物愛護とはまた異なった、生命観に触れることができる“神アニメ”です。



太平記

校注:兵藤裕己(岩波文庫)

日本の代表的軍記物語です。私自身が神戸市出身で、重要登場人物の一人の楠木正成が戦死した湊川に近いという個人的事情もあるでしょう。しかし、史伝作家・海音寺潮五郎の表現を借りれば「上は天皇から、下は一兵卒まで道徳が崩壊していた」南北朝時代、南朝への忠節を貫いた楠木正成・正行父子、そして新田義貞一族の生き様を、「昔の人の考え」と簡単に捨て去るには惜しいです。太平記は現代人の心にも打たれる何かがあるはずです。