【教科教育学】

理科教育

生物多様性を守ろう!外来種のリスクを学ぶ授業

土井徹先生

 

安田女子大学

教育学部 児童教育学科

 

 出会いの一冊

終わりなき侵略者との闘い 増え続ける外来生物

五箇公一(小学館)

外来種は人や物の移動に伴って移入されるので、これらの移動が停止しない限り、外来種の移入は止まりません。外来種の中には、在来生態系や我々に不利益を生じさせる生物がいるかもしれませんので、我々は毎日、意図的あるいは非意図的に移入される外来種とどのように付き合っていくかを考える必要があります。そしてそのためには、適切な知識を習得しておく必要があります。

 

本書では、セアカゴケグモ、ヒアリ、アライグマ、ミシシッピアカミミガメ、外来ザリガニなど多数の例を示して、彼らがどうやって日本に入ってきたのか、その後どうなったのか、どのような不利益が生じているのかといったことが具体的に解説されています。外来種問題に関する知識の習得におすすめの一冊です。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

生物多様性を守ろう!外来種のリスクを学ぶ授業

スズメ、モンシロチョウ、リンゴ…みな外来種

あなたが小さい頃、ダンゴムシを手に取ったことはありませんか。彼らは今から150年ほど前に日本に入ってきた外来種です。

 

“四つ葉のクローバー”を探すときのシロツメクサ、スズメ、モンシロチョウ、タマネギ、ニンジン、リンゴ、イチゴ…、花壇を彩るヒマワリなども全て外来種。挙げればきりがありません。

 

人間が意図的に導入した外来種もある

 

でも、皆さんが思い浮かべる外来種って、ブラックバス、ヒアリ、アカミミガメといった“悪者”ではないでしょうか。それは外来種の一部です。

 

上記の例でわかると思いますが、外来種には人間が意図的に導入したものと、非意図的に入ってきたものがあり、タマネギやブラックバスは前者、ダンゴムシやヒアリは後者です。また外来種には、ホタル等の国内外来種やクズなど、日本から外国へ移入されたものもあります。

 

野外に放すと何が起こるかわからない

 

しかし、こういったことを一般の人々はおそらく知りません。また、良いことをしているつもりで、飼育・栽培していた生物を野外に放す(実際には“捨てている”)人がいます。

 

このような行為は、“その後、野外で何が起こるかわからない”といったリスクを生じさせます。こういった現状を改善する一つの方法が教育ですが、この分野についての研究は始まったばかりです。

 

現在私は、生物学の専門家、海外の理科教育研究者、小・中学校の先生方と協働して、授業プランを開発・試行している最中で、種々の専門家が集まることで、思いがけないアイデアが生まれることを実感しているところです。

 

ミャンマーで行われた研究者交流にて、外来種に関するプレゼン後の質疑応答の様子。研究拠点形成事業に参加しているアジア7ヵ国の研究者の交流の場に、たくさんのミャンマーの教育関係者(写真後方)も集いました。

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

ペットや栽培植物の例が一番わかりやすいと思います。「かわいい」「かっこいい」という気持ちで飼育・栽培し始めたけれど、何年か経つと「こんなに大きくなるとは思わなかった…」「もう世話は無理」という身勝手な理由で、外来種を野外に捨ててしまう。

 

その生物の振る舞いによって他の動植物の生息がおびやかされ、結果的に生物多様性が損なわれることがあるのです。私たちが現在行っているカリキュラム開発は、こういった事例をできる限り減らすための、人々の意識や行動の変革に貢献できると考えています。

 


◆先生が心がけていることは?

 

「人間もほかの生物と同じ地球で暮らす生物の一員なのに、人間だけが特殊な生き方をしていて、それによって地球に大きなダメージを与え続けている」ということが私の考えの根底にあります。 そこで、何かをしようと思うときには、いつも「できるだけ地球環境にダメージを与えないようにするには、どうすればよいか」を考えて、未来予測をした上で行動を選択するようにしています。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「大学、博物館、小・中学校の連携による外来種問題に関する理科の教育課程の開発」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者と研究の大学へ行こう!

藤井浩樹

岡山大学 教育学部 学校教育教員養成課程/教育学研究科 教職実践専攻

ESDに関するプログラム開発および教師教育を研究しています。DESD(持続可能な開発のための教育の10 年)の成果に基づいた、理科の教師教育プログラムのアジア・スタンダードを提案しています。多数の海外の研究者とつながりを持ち、彼らと日常的に連携しながら研究を進めており、若い研究者の育成に力を入れています。

藤井先生のページ


Brunhilde Marquardt-Mau

Universität Bremen(ブレーメン大学)

環境教育や、ESDに関するプログラム開発、および教師教育に携わっています。多数の海外の研究者とつながりを持ち、彼らと日常的に連携しながら研究を進めています。

ブレーメン大学のページ

 


Brunhilde先生(写真中央)がドイツから訪日した際、先生とともに。

ある小学校で外来種に関する授業を実施し、その結果を踏まえたディスカッションを行いました。

 

 どこで学べる?

「教科教育学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

21.教育・心理」の「85.教科教育、教育指導法、特別支援教育」

 


 先生の授業では

授業の初回に話すこと

 

まず、“科学的知識”と“科学についての知識”の違い、そして後者を学ぶ意義について考えてもらいます。そして、収集した情報を踏まえて自分なりの最適解を導き出すことの重要性について伝えています。

  

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

ドイツのリューネブルグにあるLEUPHANA大学に、研究交流に関する打合せのために訪れた際の一枚。

 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な職種

 

(1) 小学校教諭

(2) 幼稚園教諭・保育士

(3) 養護教諭

 

 先生の学部・学科は?

子どもが主体的に学び、自立できるような実践的指導力を持つ小学校教諭、幼稚園教諭、保育士養成のための多彩なカリキュラムが整備され、入学後にコースを選択して専門性を高めます。

 

幅広い教養と専門性を身につけた、感性豊かな専門的職業人を育成しており、抜群の就職率を実現しています。理科教育については専任教員が2名おり、最新の研究動向と現場での指導のあり方をつなぐ、具体的で丁寧な学生指導を行っています。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス

戸田山和久(NHK出版新書)

科学者になるつもりがない人々が、なぜ科学を学ばなければならないのか。科学的に考えるとはどういうことか。学校では教えてくれないこれらの問いに対する自分なりの答えを、この本を読み終える頃には見つけることができるでしょう。



クマゼミから温暖化を考える

沼田英治(岩波ジュニア新書)

クマゼミは西日本で著しく増加し、その分布域は北へと広がっています。その一因は地球温暖化との指摘がありますが、それは本当なのでしょうか。地道な調査に基づく結果を踏まえて考察を行う過程が丁寧に記述されており、研究の過程を追体験しながら、研究とは何かを理解させてくれます。



論文の教室 レポートから卒論まで

戸田山和久(NHKブックス)

そもそも論文とは何か。どういう段取りで書けば良いか。これらについて、例を示しながら非常に丁寧かつ明快に記述されています。大学生になれば論文執筆は必須ですので、高校生のうちに読んでおくことを強くおすすめします。

 


 先生に一問一答

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ハワイ島(米国)。時間の流れがゆったりしているので。

 

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

サザンオールスターズ。『希望の轍』が好きです。

 

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『君の名は。』、『ミックス。』、『ラ・ラ・ランド』、『おくりびと』

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

魚釣り(メバリング、キス釣り、エギング)。

 

Q5.会ってみたい有名人は?

松岡修造さん

 

私の居住する広島市の近くにある島嶼部で、キス釣りをしているところです。

穏やかな瀬戸内海の波の音を聞きながら潮風に吹かれ、リラックスできる私の大事な時間です。