【生物資源保全学】

サクラマス

地域で生態のちがうサクラマスの生活史を追って

北西滋先生

 

大分大学

理工学部 共創理工学科 自然科学コース(工学研究科 工学専攻 自然科学分野 ※2021年度以降)

 

 出会いの一冊

パワーエコロジー

佐藤宏明、村上貴弘:編(海游舎)

さまざまな動物を対象とする生態学者たちが執筆した本です。研究活動の体験記のような形で書かれていて、生態学研究の「面白さ」や「大変さ」など、生態学研究を通して得られるすべてのモノが記されています。

 

研究の「素晴らしさ」を感じてもらえる一冊なので、生態学はもちろん、生物学や医学、地学や化学など、広く理系科目に興味を持つすべての人に読んでいただきたいです。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

地域で生態のちがうサクラマスの生活史を追って

一生川で過ごすか、海から戻ってくるか

私は大学院時代からずっとサクラマスの研究を続けてきました。

 

サクラマスには、生活史の途中で降海し大きく成長した後に生まれた河川に戻ってくる降海型(サクラマス)と、一生を河川で過ごす残留型(ヤマメ)の2つの生活史があり、同じ個体群の中に異なる生活史を持つ個体が一緒に暮らしています。

 

また、この2つの生活史の割合は地域ごとに異なり、北海道などの高緯度地域では多くの個体が降海する一方、九州などではほとんどの個体が残留型となります。

 

さらに、体の大きさや形、模様なども地域ごとに異なっています。そのため、日本各地の様々な河川でサクラマスに出会うたびに、新しい発見を得ることができます。

 

水産資源の激減は大きな課題

 

近年、サケだけでなく、ウナギやマグロなど、多くの水産対象種において、資源量の激減が大きな問題となっています。同時に、高齢化や資源枯渇による水産業の衰退も、特に地方において大きな課題となっています。

 

サクラマスはその水産資源としての重要性から、日本各地で盛んに人工孵化放流事業が実施されているのですが、資源量の回復には至っていません。

 

また、異なる水系間での移植放流による、移植先の固有遺伝子資源の消失も大きな問題となっています。

 

生物保全と産業育成の両立を

 

生物保全と産業育成は相反すると考える人も多いかもしれません。しかし、生物の“生き方”を詳しく知ることで、これらの両立は可能だと思います。

 

サクラマス研究を通じて、本種を含む水圏の在来生態系の保全と、地域のニーズや強みを活かした生物資源の利活用との両立を図る順応的な資源管理につなげていきたい、そのように考えながら研究に取り組んでいます。

 

研究対象であるサクラマス。大学院時代から調査を続けている北海道・厚田川にて撮影
研究対象であるサクラマス。大学院時代から調査を続けている北海道・厚田川にて撮影
 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「生活史分化パターンの地域間変異に着目したサクラマス個体群の遺伝的構造の解明」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

松田一希

中部大学 創発学術院

【テングザルの研究】研究をとても楽しんでいることが伝わってきます。

松田先生のページ(Ikki’s web)

 


 どこで学べる?

「生物資源保全学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

7.生物・バイオ」の「24.生態学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
研究室の現メンバー。大学の実験室にて
研究室の現メンバー。大学の実験室にて
 先生の学部・学科は?

大分大学理工学部自然科学コースでは、物理・化学・生物・地学の4科目の基礎を幅広く学ぶことができます。理学分野の多くの大学では、例えば、物理学科や生物学科のように、特定の科目を深く学ぶカリキュラムとなっています。一方、本コースでは、理学分野における基礎的知識を幅広く学ぶことができるため、理学についての多角的視点と総合的考察力を養うことができます。

 

大分大学で新たに始めた中津干潟でのヤドカリ調査の様子(写っているのは研究室の学生)
大分大学で新たに始めた中津干潟でのヤドカリ調査の様子(写っているのは研究室の学生)
 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

風の谷のナウシカ

宮崎駿(徳間書店)

生物や環境、進化、人間活動などについて考えさせられる本で、全ての中高生に勧めたい。

 

 



生き物をめぐる4つの「なぜ」

長谷川眞理子(集英社新書)

生物の“なぜ”についての、いろいろなアプローチを知ることができ、生物学に対する視点を増やすことができる本。生物学が好きな学生だけでなく、広く中高生全員に勧めたい。



ソロモンの指環 動物行動学入門

コンラート・ローレンツ、訳:日高敏隆(ハヤカワ文庫NF)

生き物の面白さを知ることができる素晴らしい本。生き物が苦手・嫌いな学生にも読んで欲しい。