【会計学】

財務諸表

ライバル会社との競争のなかで、経営者は利益を操作するのか

北川教央先生

 

神戸大学

経営学部 経営学科(経営学研究科 財務会計専攻)

 

 出会いの一冊

鉄の骨

池井戸潤(講談社文庫)

中堅ゼネコンの談合をテーマにした小説です。経営学の研究対象は企業やそこで働く人ですが、高校生の時にはあまりピンとこないかもしれません。それらを身近に感じたいという人に、この小説はおすすめです。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

ライバル会社との競争のなかで、経営者は利益を操作するのか

利益の数値を操作する「利益調整」

株式会社は、自分たちの活動の成果を「財務諸表」という書類に取りまとめ、定期的に企業外部の人々へ開示しています。

 

「財務諸表」の中でも特に重要なのが、企業の儲けを表す「利益」の数字です。投資家や債権者といった企業外部の情報利用者は、この数字を見ながら企業に関わる様々な意思決定を行っています。

 

しかし、利益数値は機械的に計算されるわけではありません。実は、経営者の見積りや判断によってある程度操作ができるのです。会計ルールの範囲内で、経営者が自分に都合よく利益数値を操作することを「利益調整」(earnings management)といいます。

 

いつ、どんな動機で利益調整を行うのか

 

もしも利益調整に関する理解が十分でなければ、投資家や債権者は操作された情報に誤導され、誤った意思決定をしてしまうかもしれません。多くの会計学者は、このような問題意識のもと、経営者がいつ、どのような動機に基づいて利益調整を行っているのかについて、研究をしています。

 

企業間の競争と利益調整

 

とりわけ、最近の私の研究関心は、「企業間の競争は利益調整を助長するのか」というものです。これには2つの見解があります。

 

1つは、競争が激しくなると、自社の優位性をアピールするために、経営者は利益調整を積極的に行うようになるという見解です。

 

いま1つは、ライバルに勝つため本業に一層注力するようになるので、経営者は利益調整にまで頭が回らなくなり、利益調整は抑制されるという見解です。

 

どちらがより妥当であるのかについて、企業が開示した財務諸表数値を収集し、統計分析を行うことで検証しています。

 

利益調整の大きさ(「裁量的発生高」とよばれる尺度で測定)と次期の増減益の関係(2000年から2019年における上場企業の連結財務諸表を用いて筆者作成。データは日本経済新聞社より入手)。当期に意図的な利益捻出を行った企業ほど、次期は減益を経験しています。見た目を取り繕う「利益調整」を見極めることが、企業評価において重要であることが分かります。
利益調整の大きさ(「裁量的発生高」とよばれる尺度で測定)と次期の増減益の関係(2000年から2019年における上場企業の連結財務諸表を用いて筆者作成。データは日本経済新聞社より入手)。当期に意図的な利益捻出を行った企業ほど、次期は減益を経験しています。見た目を取り繕う「利益調整」を見極めることが、企業評価において重要であることが分かります。
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「製品市場の競争が会計情報の有用性に及ぼす影響に関する実証研究」

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