【経済史】

明治時代の羊毛業

明治の工業化を牽引した繊維業、未着手の羊毛業を研究

平野恭平先生

 

神戸大学

経営学部 経営学科(経営学研究科 経営学専攻)

 

 出会いの一冊

日本近代技術の形成 <伝統>と<近代>のダイナミクス

中岡哲郎(朝日新聞社)

日本の工業化を考える時、西欧からの技術の移転がよく取り上げられますが、単に西欧の技術を持ってきただけというわけではありません。日本にすでにあった産業や技術を生かして西欧の技術を取り入れる、日本の社会や風土に見合った技術に修正するなど、技術の受け手である日本側の主体的な活動が見られました。

 

本書を通じて、日本人が西欧の技術を取り入れる中で直面した課題や困難、それを克服するための工夫や知恵を学んで欲しいと思います。近代日本の基礎を作った人々の試行錯誤やチャレンジ精神を感じ取り、これからの日本を支える皆さんの糧にしてもらいたいと思います。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

明治の工業化を牽引した繊維業、未着手の羊毛業を研究

製糸業や綿紡績業が日本経済に貢献

明治時代の工業化を学ぶ時、必ず登場するのが繊維産業です。製糸業や綿紡績業が、工場で働く人々の写真とともに取り上げられます。

 

製糸業や綿紡績業の果たした日本経済への貢献は極めて大きかったことに加えて、そこで働く女性労働者たちが厳しい労働環境に置かれていたことやそれを改善しようと努めた人々の努力もクローズアップされます。

 

日本人の洋装化に羊毛が欠かせなかった

 

これまでの経済史・経営史では、製糸業や綿紡績業を取り上げた研究が圧倒的に多く、国際的にも高い学術水準にありますが、繊維産業は製糸業や綿紡績業だけではありません。

 

私たちが取り上げた羊毛業は、製糸業や綿紡績業に比べると産業規模こそ小さいものの、明治以降に多くの人々に利用されるようになった毛織物を生産し、会社勤めの人たちが着るようになったスーツや警察官をはじめとする各種制服、さらには皆さんにも身近な学生服など(現在は合成繊維を用いたものが多いです)、日本人の洋装化とも無関係ではない重要な存在といえます。

 

羊毛業経営を生産・雇用・会計から研究

 

日本の工業化を牽引した繊維産業の全貌を捉えるには、また私たちの服飾文化を考えるには、この羊毛業の研究も欠かせないのです。

 

そこで、私たちは、研究が限られていた羊毛業の歴史について、この業界の代表的な企業に残された膨大な歴史資料を駆使して、羊毛業経営の基礎となる生産システム・雇用システム・会計システムの3つの側面からアプローチしようとしています。

 

ニッケ(日本毛織株式会社)創業期の資料。これらの資料は神戸大学経営学部資料室で保管されています。

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

繊維産業史の中では、企業利益のために労働者を酷使することもありましたが、労働者の勤労意欲を重視し、働きがいと企業利益を両立させようとした例もあります。また、繊維産業は、戦前の日本経済を支える産業として発展し、戦後はそこで培った資産や技術を生かして新しい分野にチャレンジする動きもありました。

 

このような歴史の研究を通じて、現在の企業経営や未来の産業発展を考える手がかりが得られないかと考えています。

 


◆先生が心がけていることは?

 

SDGsを意識したことはありませんが、あえて答えるなら、専門の経済史・経営史・技術史を通じて、「産業と技術革新の基盤をつくろう」を考えることになるかと思います。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「日本羊毛工業史研究の拠点形成を目指して:生産・雇用・会計制度の形成・発展過程」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「経済史」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

18.社会・法・国際・経済」の「75.経済学、農業経済・開発経済」

 


 先生の授業では

企業の歴史やそこで行われてきた経営・管理の歴史の講義を担当しています。

東日本と西日本の電力周波数の違い、パソコンのキーボードの配列など、歴史を紐解くことでしかわからないことが意外と身近にあるように、企業の経営・管理も同じです。現在や未来を考える際にも、過去を学ぶことが大事であると伝えています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1)官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2)金融、保険、証券、ファイナンシャル

(3)商社、卸、輸入

 

◆主な職種

 

(1)営業、営業企画、事業統括

(2)事業推進・企画、経営企画

(3)人事・労務・研修、その他人事系専門職

 

◆学んだことはどう生きる?

 

指導した卒業生はまだ多くありませんが、いろいろな業界・業種に就職しています。ゼミで身につけた歴史的に考える思考や長期的に物事を捉える視点をもって活躍してくれていることと思います。ゼミでの経済史・経営史・技術史の学習・研究を通じて、様々な資料やデータを探すことの抵抗感をなくし、主体的に調査・分析できる能力を培い、それを社会で生かして欲しいです。

 

 先生の学部・学科は?

神戸大学経営学部は、1949年に日本で最初に設置された経営学部であり、経営学の研究・教育の始まりは戦前にまで遡る長い歴史があります。私の専門である経営史も含めて、経営学を幅広く学ぶことができます。また、会計学・商学・経済学なども併せて学ぶことができるため、多様な視点から経営活動を考察する力を身につけることができます。

 

神戸大学経営学部は日本で最初の経営学部であり、経営学の教育・研究の中心でもあったことから、

「わが国の経営学ここに生まれる」という石碑も建てられています。

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

企業家たちの幕末維新

宮本又郎(メディアファクトリー)

幕末から明治にかけての時代を考えると、西郷隆盛、勝海舟、坂本龍馬、桂小五郎、高杉晋作など、政治や軍事で活躍した人物の名前が頭に浮かぶと思います。しかし、この時代、政治や社会の変化を捉え、開港によって訪れたビジネスチャンスをつかんだ企業家たちもいました。彼らは、自らの才覚と気概をもって日本経済の担い手となり、近代日本の建設に貢献しました。本書では、幕末から明治の著名な企業家たちが取り上げられています。彼らの経済活動から近代日本の幕開けを学ぶことも面白いと思います。



増補 学校と工場 二十世紀日本の人的資源

猪木武徳(筑摩書房)

学校を卒業すれば企業や官公庁などで働くことが多いと思います。働く上で求められる知識・技能・スキルは、学校で身につけるだけではなく、働きながら修得するものでもあります。本書が描く明治から現代に至る人材(人的資源)の形成と活用の歴史は、現在のあり方とは異なっているところもありますが、皆さんが学ぶことや働くことを考える一助になるかもしれません。



産業遺産の記録

J-heritage、監修:前畑洋平、黒沢永紀(三才ブックス)

産業遺産は、世界遺産となった富岡製糸場に限らず、日本各地に大小・業種様々なものが見られます。煉瓦造りの建物、巨大な機械、廃線跡や廃墟、施設群を含めた景観など、魅力を感じるポイントは人によって異なりますが、それらの歴史にも関心を持ってください。

 

書籍から得る知識だけではなく,産業の歴史の証人である産業遺産を通じて、経済史・経営史・技術史を学ぶ機会になればと思います。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

高分子化学。化学繊維の歴史を研究する中で、高分子化学が社会・経済に果たした役割や貢献の重要性を感じたためです。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

イギリス・ウェールズ。在外研究中に滞在した田舎での暮らしがのんびりとしていて楽しかったためです。

 

Q3.熱中したゲームは?

『ドラゴンクエスト』シリーズです。

 

Q4.大学時代の部活・サークルは?

所属していませんでしたが、部活・サークルとは別に、高校生時代から古武道を嗜んでいました。

 

Q5.研究以外で楽しいことは?

古武道です。40歳を過ぎて運動の機会が減る中で、週に1度の稽古は身体と精神を鍛える貴重な時間となっています。

 

ウェールズで滞在していた当時の自宅。街の中心部まで車で15分、家の周りは木々が溢れており、

羊や牛を飼っているところもありました。