【教科教育学】

実験学習

理科の学習は実物で!アカパンカビの仲間で遺伝学を学ぶ

伊藤靖夫先生

 

信州大学

全学教育機構 自然科学教育部門(総合工学系研究科 生物・食料科学専攻)

 

 出会いの一冊

単純な脳、複雑な「私」

池谷裕二(講談社ブルーバックス)

脳科学者としての世界観が素晴らしいです。身近なことから出版当時の最先端の研究まで、話題は多岐にわたります。先生の出身高校に出向いて行われた集中講義が書籍化されたものなので、高校生の学生さんなら、予備知識がなくても楽しく、興奮しながら読み進めることができると思います。

 

私が担当している大学1年生対象の講義の推薦図書としており、毎年、数十名の学生さんが読後レポートを提出しますが、その多くが絶賛で、脳の研究に関心を持つきっかけになっているようです。私もこんな講義ができるようになりたいと日々思い、モチベーションのもとになっています。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

理科の学習は実物で!アカパンカビの仲間で遺伝学を学ぶ

実物で自然を理解する

「理科の勉強は実物で!」というのが、この研究の根っこです。教科書や副読本には正しく、わかりやすい説明があり、きれいな写真や図も満載です。また、ウェブやタブレットで、動きのあるものとして見ることもできます。そして、このような環境になったからこそ、学校の授業で、実物に触れながら自然を理解するチャンスが拡がっています。

 

思い通りにならないから、実験を続ける

 

研究の場では常に、自分がアクションを起こし、それに対して結果が返ってきます。しかし、生き物を相手にすると、思い通りにならないことも多いです。

 

理由は、たくさんのことが結果に影響するからです。ほんの数℃の温度の違いによって、まったく違う結果になることがあります。そして、その理由や原因を考え続け、実験を続けることによって、自然の姿を理解できます。

 

遺伝・生殖の教材は限られるが

 

実際には、様々な優れた実験教材が準備され、それぞれの環境の制約下で実践されています。

 

しかし、生物学の基本とも言える遺伝学、それも、メンデルの遺伝学を、学校の現場で生殖や遺伝の学習期間に追体験できる教材は限られています。これは、材料の維持や交配にかかる時間のためです。ビードルとテータムが一遺伝子一酵素仮説を示した際に材料としたアカパンカビの仲間を材料とすると、これらの問題を解決することができます。

 

この研究で開発する交配実験の教材が普及し、より多くの生徒さんたちが生き物に触れることを通じて、遺伝と遺伝子についての理解を深めることを目指しています。

 

アスペルギルスの生殖器官である「閉子のう殻(中央左の黒い粒,直径約0.1 mm)」から配偶子(中央右の赤みを帯びたザラッとした部分)を取り出したところです。見えている溶液の体積は約0.1 mlで,閉子のう殻は肉眼で観察できます。
アスペルギルスの生殖器官である「閉子のう殻(中央左の黒い粒,直径約0.1 mm)」から配偶子(中央右の赤みを帯びたザラッとした部分)を取り出したところです。見えている溶液の体積は約0.1 mlで,閉子のう殻は肉眼で観察できます。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

ITとAIによって、教育の情報の部分は今後、より多くの人に公正に、かつ生涯を通じてアクセスが担保されるようになるでしょう。しかし、自然は多くのものが相互作用し合い、同じインプットが常に同じアウトプットを導くとは限りません。この研究で開発する教材は、情報から実際の自然につながる架け橋のうちの一つとして、既存の多くの優れた教材とともに、学校教育の質を高めることにつながります。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「遺伝に関わる実習の制約を解決する教材としての子のう菌類の研究」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「教育社会学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

21.教育・心理」の「86.教育学、教育行政学、教育社会学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 アスペルギルスの交配の結果、親(白と黄)とは異なる形質(緑)が観察されます(観察されないこともあります)。
 アスペルギルスの交配の結果、親(白と黄)とは異なる形質(緑)が観察されます(観察されないこともあります)。
 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

神々自身

アイザック・アシモフ、訳:小尾芙佐(ハヤカワ文庫SF)

50年前に出版されたSFの古典で、不朽の名作です。初読は中学の頃だと思いますが、原子の構成単位を「性」に結びつけたアイデアに、「なぜ『性』は雄と雌だけなのか」という問いを長らく持つことになりました。科学者を目指すならぜひ。



人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか

中川毅(講談社ブルーバックス)

重要な発見には、ある材料を見つけたとき、あるいは気づいた時が一番大切、ということが多々あります。本書の研究もその一例だと思います。内容はショッキングですが、具体的なデータとしてわかりやすく納得のいくものです。また、研究の場の臨場感もすごく伝わってきます。



謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア

高野秀行(集英社文庫)

世界観が広がります。あっという間に読み終わると思います。ただ、若い時にこの著者にハマると、大変か楽しいか、両極端の将来が待っているかもしれません。