【日本語教育】

日本語学習

紛争地域シリアで、希望を持ち日本語を学習する人たち

市嶋典子先生

 

秋田大学

高等教育グローバルセンター

 

 出会いの一冊

ボタン穴から見た戦争 白ロシアの子供たちの証言

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、訳:三浦みどり(岩波現代文庫)

本書は、ナチスドイツに侵攻されたソ連白ロシア(現在のベラルーシ)で子どもだった101人の戦争に関する証言集です。作者のインタビュー対象者は、歴史的偉人でも著名人でもなく、市井の人々です。高所から戦争の問題を論じるのではなく、私たちと変わらない、普通の人々の語りから当時の戦争を描き出しています。数々の証言は胸を打つものであり、私がシリア出身の日本語学習者にインタビューを行う際にとても参考になりました。本書をきっかけに、戦争の問題、平和の重要性を考えてもらいたいです。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

紛争地域シリアで、希望を持ち日本語を学習する人たち

紛争の渦中でも日本語を学ぶ学習者がいる

現在、世界の137の地域で日本語教育が行われています。この中には、決して数は多くはありませんが、現在も紛争状況にある国々も含まれています。

 

中でもシリアには、紛争渦中においても、日本語を学び続ける学習者が存在しています。また、シリアを離れ、難民として外国で生活しながら、日本語を学び続ける学習者もいます。

 

シリアの未来を作るための武器

 

私は、そんな学習者に2011年から聞き取り調査を行ってきました。以下に、学習者が日本語で語ったインタビュー内容の一部を、そのまま示します。

 

シリアに残り、独学で日本語を学び続けるAさんは、「日本語の学ぶは、どんな大変な時でも、私が生きているため、やっぱり希望です。戦争が終わりになった時、私がシリアの未来を作ります、他の人にお願いしたくない。その時、日本語は武器になるはずです」と述べました。

 

また、スウェーデンに難民として渡り、独学で日本語を学ぶBさんは、「私自身を理解してもらうことの一つ、日本語ができる私ということ見せたい。ただの難民ではなく」と語りました。

 

日本語を学ぶことが生きる希望につながる

 

これらのインタビューから、彼/彼女らが、日本語を生きるための希望、未来を作るための武器、自身のアイデンティティの一部として捉えていると考えることができます。

 

私は、彼/彼女らがどのような環境で日本語を学んでいるのか、なぜこのような認識を持つようになったのかを考え、人がことばを学ぶことの意味を探求しています。

 

2011年3月、ダマスカスへ調査のために訪問した際に撮影したものです。写真に写っているのは、シリアの日本語学習者です。彼・彼女らと様々なことを語り合いました。これを最後に、ダマスカスを再訪することはできなくなりました。
2011年3月、ダマスカスへ調査のために訪問した際に撮影したものです。写真に写っているのは、シリアの日本語学習者です。彼・彼女らと様々なことを語り合いました。これを最後に、ダマスカスを再訪することはできなくなりました。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

日本語教育の国際社会における平和への貢献の可能性が指摘されながらも、具体的な議論、実践の提言が十分になされてはきませんでした。本研究は、シリア出身の日本語学習者の声を拾い上げ、彼/彼女らのアイデンティティ形成過程および日本語学習環境を明らかにし、日本語教育学が貢献できる内容を提言するものです。語りが形成される背景となる個人的な経験と社会的文脈との関係を深く考察していきます。個々の語りの詳細な記述から、ボトムアップ的に日本語教育としての支援方略を構築することを目指しています。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「シリア出身の日本語学習者の学習環境とアイデンティティ形成過程の動態について」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

細川英雄

言語文化教育研究所

1980年代後半より外国人留学生のための日本事情に取り組み、90年代後半からの総合活動型日本語教育創始を経て、2000年代よりことばの市民による言語教育実践研究を提案、社会的行為主体としての言語表現主体構想を発信している。細川の提唱することばの市民による言語教育実践研究は、母語、第二言語、外国語を超えて、日本国内のみならず、世界中の言語教育実践に寄与するものであると考えます。

言語文化教育研究所HP 


Marcella Mariotti

Ca' Foscari University of Venice Department of Asian and North African Studies

critical/transformative language pedagogy, e-learning, social sustainability and placement を中心に研究をしています。従来の言語教育を批判的に捉え直し、広く社会に貢献する言語教育のあり方を模索している点、で注目しています。

Mariotti先生のページ


広瀬和佳子

神田外語大学 外国語学部 国際コミュニケーション学科

日本語で読み書きする力を高めるために必要な学習環境について研究している。日本語母語話者と非母語話者が協働で学び、相互理解を深める場づくりを考えている。言語教育の目的を単に語彙や文法を習得することだけに置いていない点に共感しています。協働での学びを通して、どのような相互理解を深める場を構築できるのか、そのような学習環境はいかなるものなのか、注目しています。

広瀬先生のページ 

 


 どこで学べる?

「日本語教育」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「82.文学、美学・美術史・芸術論、外国語学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
2016年9月、ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学へ客員研究員として訪問した際に実施した授業を撮影したものです。写真に写っているのは、日本専攻の学生達です。
2016年9月、ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学へ客員研究員として訪問した際に実施した授業を撮影したものです。写真に写っているのは、日本専攻の学生達です。
 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

哲学の練習問題

西研(河出文庫)

本書では、哲学するとはどんなことか、人間の本性とはどんなものか、自分と社会はどうつながっているのか、というように、様々な問いから、哲学の意味を考えます。難解なことばは使われておらず、個性的なイラストとあわせて、読み進めることができます。本書を通して、自分と世界をつなぐとは何か、自分にとっての生きることの意味は何かを哲学的に探求することができます。



対話をデザインする 伝わるとはどういうことか

細川英雄(ちくま新書)

この本は、対話において本当に大切なのは、技術論や方法論ではなく、対話を通して伝えたいことは何かを見つけることであり、最終的には、他者とともにどう生きるかを考えることだと主張しています。多様な価値を持つ他者とどのように対話するのか、なぜ対話が必要なのか、この本を通して、ぜひ、その意味を考えてもらいたいとと思います。



シリアの花嫁(映画)

エラン・リクリス(監督)

この映画は、イスラエルに占領されて以来、シリア側と分断状態にあるゴラン高原の小さな村を舞台に、政治に翻弄される花嫁と、その家族の運命を描いたものです。シリアの問題というと遠い国の出来事で、自分とは関係のないこととして考えられるかもしれません。しかし、既に、日本にも少ないながらもシリア難民は存在しています。また、世界各地で日本語を学び続けるシリア出身の日本語学習者も存在しています。少なからず、私たちと関係がある問題であると言えます。この映画では、シリアの歴史や政治、人々の生活が描かれています。この映画をきっかけに、シリアの問題に少しでも興味を持ってもらえたらと思います。

 


 先生に一問一答

Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

イタリアのヴェネツィア。2016年5月から2017年3月まで、ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学に客員研究員として在籍し、ヨーロッパにおける移民や難民の問題を考えることができました。また、そこで、生涯の友と出会えました。

 

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『この世界の片隅に』。原作の漫画もおすすめですが、大画面、カラーで見ると、また別の味わいがあります。

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

秋田の食材を使った料理。秋田では、米、魚、肉、野菜、果物、どれをとってもおいしいものが手に入ります。時間がある時に、これらの食材を使って料理をすることが楽しみの一つです。秋田県産のチーズは、イタリアチーズに負けないくらい美味なものもあります。