【環境リスク制御・評価】

下水疫学

下水検査で新型コロナの流行状況をつかめ

本多了先生

 

金沢大学

理工学域 地球社会基盤学類(自然科学研究科 環境デザイン学専攻)

 

 出会いの一冊

もやしもん

石川雅之(イブニングKC)

大学で微生物を研究する研究室にいたことがある人にとっては、あるあるネタ満載の必読書である。もし大学で微生物を学ぶことに興味があれば、『もやしもん』ネタで先輩たちに溶け込めること間違いなし。このように菌やウイルスの気持ちがわかれば良いが、現実にはなかなかそうはいかない。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

下水検査で新型コロナの流行状況をつかめ

「トイレ」の先でできること

皆さんは毎日トイレに行くと思います。そのトイレで出たものが実は情報の宝庫だということをご存知でしょうか。

 

便には、皆さんの腸内に棲息する微生物の遺伝子が多く含まれています。その遺伝子を調べることで病原微生物の保有状況などを知ることができます。

 

皆さんがトイレで排泄した便や尿は、地下に張り巡らされた下水管で集められて下水処理場まで送られます。集められた下水には、その地域の皆さんがトイレで出したものがすべて含まれていることになりますので、下水を調べれば、地域全体の病原微生物やウイルスの流行状況を、たった一回の検査で把握することができます。

 

地域でどんな耐性菌が蔓延しているか調査

 

このように、下水を検査することで地域の病原微生物の流行状況等を把握することを「下水疫学調査」と呼び、下痢症を引き起こすノロウイルスの流行検知などに実際に用いられています。

 

私たちの研究室では下水の中の薬剤耐性菌について長年調査をしています。地域でどの種類の薬剤に対する耐性菌が蔓延しているかを知ることで、感染症治療において効果的な抗生物質の種類を知る手段になります。

 

コロナウイルス遺伝子も検出

 

最近では、下水中の新型コロナウイルスから流行開始や収束状況を把握する研究も行っています。下水では無症状や軽症感染者から排出されるウイルス遺伝子も検出することができるので、医療機関を受診しない人を含んだ流行の全体像を把握することができると考えています。

 

また、下水中の病原微生物やウイルスが環境中に排出されないようにすることも大切です。下水処理場での薬剤耐性菌やウイルスの除去に関する研究も行っています。

 

タイ・バンコク2011年洪水のようす
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 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

下水や汚水の適切な処理による水資源・水環境の保全と衛生的安全確保、廃水の間接的・直接的再利用による水資源の有効利用に資する研究です。 


 

◆先生が心がけていることは?

 

ひとりひとりがSDGの参加要員であることを意識させる教育

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「遺伝子オントロジーによる活性汚泥の理解―ブラックボックスから生命システムとして」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

杉山昌広

東京大学/未来ビジョン研究センター

【地球温暖化対策に関わる政策】東大理学部(気候科学)からMIT修士の技術政策へと分野を変えて海外留学し、第一線で活躍していることは、いまの中高生の将来の進路やキャリアの参考になると思います。

杉山研究室HP


山村寛

中央大学

理工学部 人間総合理工学科/理工学研究科 都市人間環境学専攻

【膜ろ過による水処理】水処理における先進的な技術開発を行っていることと、会社員を経てから大学教員になったというキャリアが、中高生の参考になると思います。

水代謝システム工学研究室HP

 


 どこで学べる?

「環境リスク制御・評価」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

1.環境・防災」の「3.リサイクル、汚水処理・排ガス、資源循環」

 


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河北潟での採水風景
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 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 環境プラントメーカー

(2) 環境系コンサルタント

(3) 土木建設業

 

◆主な職種

 

技術職

  

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学

マイケル・サンデル、訳:鬼澤忍(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

誰もが直面する身近なことに潜む対立的な倫理命題を、議論を通じて考えるすばらしい講義。人生は迷いと選択の連続である。この書籍を通じ、社会規範の多様化が進む社会で、ぜひ、自分はどのように他人と関わって生きるかを考える機会にしてほしい。



アインシュタイン論文選 「奇跡の年」の5論文

アルベルト・アインシュタイン、訳:青木薫(ちくま学芸文庫)

現代の物理の教科書に載るような知識が、どのような思索の上でどのように誕生したのかを感じることができる本。中高生にも感じてほしい。また、相対性理論や光量子仮説など、一見難解な内容に思えるが、実は論文は非常に平易な文と数式で構成されている。他のどの解説書より、本人による論文がもっともわかりやすい。



サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福

ユヴァル・ノア・ハラリ、訳:柴田裕之(河出書房新社)

これまでの人類の進化を学ぶこと、そして、これから中高生が生きるであろう未来の人類社会について、多くの示唆に富む。変わりゆく未来への見通しは、これから進路を選択する中高生にとって有益だと思う。



感染症の世界史

石弘之(角川ソフィア文庫)

人類を脅かし続ける感染症。その原因、微生物について解説している。



不都合な真実

アル・ゴア、訳:枝廣淳子(実業之日本社文庫)

地球温暖化問題の啓蒙書。映画もおすすめ。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

計量経済学か哲学か脳神経科学。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

タイ。博士学生時代とその後のプロジェクトで3年半暮らしたので。ご飯が美味しい。

 

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

サカナクション。特に、『ユリイカ』。

 

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 電話技術資料の英訳

 

Q5.研究以外で楽しいことは?

建築巡り、食べ歩き