【日本語教育】

講義理解力

講義理解のコツがわかる!ビデオ教材を開発

毛利貴美先生

 

岡山大学

グローバル人材育成院 日本語部門

 

 出会いの一冊

言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで 

今井むつみ、針生悦子(ちくま学芸文庫)

この本では認知心理学の視点から、発達期のこどもが言葉や概念を覚えていくメカニズムについて解説していますが、外国語学習についても言及していて、参考になる点が多いと思います。

 

私が現在行っている講義理解の研究でも、講義を聞く際に言語情報や非言語情報を手がかりに、未知語の推論をするプロセスがあり、言語習得研究という点で共通する内容となっています。著者がこれまで行ってきた膨大な実証研究によって解明された事象から、言語習得の研究の面白さを知ることができるのではないかと思います。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

講義理解のコツがわかる!ビデオ教材を開発

ノートをとることは外国人留学生には難しい

授業中に先生の話を聞きながら、ノートをとること。実はこれは高度なマルチタスクで日本語を母語としない外国人留学生にとっては難しいことなんです。私が大学院の博士課程でアイカメラを使って外国人留学生の視線を分析したところ、黒板の文字を何度も読み戻り、情報の処理に時間がかかっていることがわかりました(『講義理解過程におけるアカデミック・インターアクションに関する実証的研究 : 留学生の視線行動から考えるグローバル化時代の大学教育』)。そのため、日本の大学に入学後、講義を理解するのに苦労している留学生がいることも調査でわかりました。

でも講義理解のストラテジー(方法)を身に付けるためのWeb動画教材は、世界でもまだ開発されていません

 

よって、この研究では、まず「どうやったら講義を効率的に聞き取れるのか」を知るため、日本人学生や留学生に調査を行いました。講義ビデオを見ながら特別な電子ペンでノートをとり、次にそのノートの軌跡を音と同時に再生させて、何を考えていたかを自由に話してもらいました。

 

内容をまとめる言葉、強調するしぐさに反応

 

ノートと口述のデータを分析した結果、理解テストの点が高い学生は、講義中に教師が「このように」等、まとめや重要な部分を示す機能を持つ言葉(メタ言語)を発言したとき、また、強調のためのジェスチャー(非言語行動)が表れたときに、多くノートに書き留めていました。

 

その他にも、教師の声がよく聞けるように教室の前方に座ったり、わからなかったところを質問できるように人とのネットワークを広げる行動をしていて、講義理解には言語以外の要素が大きく関係していることがわかりました。

 

Webビデオ教材の効果、検証中

 

この調査結果から、前述の複数のストラテジー(方法)、つまりマルチモーダルな要素を取り入れた40項目のCan-do Statements(講義理解能力のリスト)を作成し、この研究を共同で行っている教員の専門的見地から説明を行うWeb動画教材を完成させ、現在は効果検証を行っているところです。

 

この教材を世界のどこかにいる日本語学習者が視聴して、将来、日本の大学や大学院入学の手助けとなることを願っています。

 

カンボジアの高校生を対象に、学習ストラテジー(学習を効率的に進めるための方法)についてのセミナーを開催しました(2019年)
カンボジアの高校生を対象に、学習ストラテジー(学習を効率的に進めるための方法)についてのセミナーを開催しました(2019年)
2008年からアメリカの大学で2年間、Visiting Assistant Professorとして、日本語と日本文化を教えました。アメリカの授業が「学生にとっていかに‟Effective=効果的な”授業を行ったか」という点を重視することを知り、知識を一方的に教える授業ではなく、学生との双方向の授業のあり方を考えるきっかけになりました。
2008年からアメリカの大学で2年間、Visiting Assistant Professorとして、日本語と日本文化を教えました。アメリカの授業が「学生にとっていかに‟Effective=効果的な”授業を行ったか」という点を重視することを知り、知識を一方的に教える授業ではなく、学生との双方向の授業のあり方を考えるきっかけになりました。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

2019年現在、31万人以上の外国人留学生が来日し、そのうち約半数が日本の大学や大学院に入学していますが、未だ受け入れ国である日本側がホスト、外国人留学生がゲストとなっているケースも少なくありません。

 

「郷に入れば郷に従え」ではなく、教育のグローバル化に向けて相互に協力し、学び合える環境づくりが重要だと感じています。そして、世界の国々から日本を選び留学してくれた学生が安心して学生生活を送れるように、受け入れ機関が在籍中の学習をサポートし、卒業時には就職支援をするなど、人材育成の視点で教育を進めていく必要があると考えています。 

 


◆先生が心がけていることは?

 

日本語教育プログラムの中にSDGsを組み込み、海外の学生と地域のSDGsを実践している方たちとの対話の機会を設けています。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「マルチモーダルな視点による講義理解能力育成のためのWebベース教材の開発」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

宮崎里司

早稲田大学 日本語教育研究科 日本語教育学専攻/国際コミュニケーション研究科 国際コミュニケーション研究専攻

第二言語習得研究(外国人力士の日本語教育、外国人看護士・介護福祉士のための日本語教育、夜間中学、市民リテラシー、アイカメラ、脳波など)の研究をしています。先生の研究から、第二言語習得全般、特に研究の方法について学びました。また、書籍だけでなく、実際に現地に行って自分の目で日本語教育の現場を確認し、外国人を取り巻く問題や研究に触れることができ、研究の動機が高まりました。

宮崎研究室HP


森田裕介

早稲田大学 人間科学部 

教育工学、科学教育など、テクノロジーを活用した学習支援、特にヴァーチャルリアリティ(VR)などの技術の応用や、遠隔学習(映像メディアの活用)などの研究を行なっています。コロナ禍の中、オンライン学習の機会が増えた人も多いと思いますが、これらICTを利活用した学習デザイン、eラーニングなどを基礎から応用まで学ぶことができます。

森田研究室HP

 


 どこで学べる?

「日本語教育」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「82.文学、美学・美術史・芸術論、外国語学」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
これまでの研究の結果をもとに、講義理解に有効なストラテジーについての説明やトレーニングが受けられるビデオを制作しました。
これまでの研究の結果をもとに、講義理解に有効なストラテジーについての説明やトレーニングが受けられるビデオを制作しました。
 先生の学部・学科は?

私は岡山大学グローバル人材育成院の日本語教育プログラムの運営に携わっていますが、現在は予備教育特別コースで、留学生の大学院受験準備やアカデミックリスニングの科目を担当しています。

 

また、グローバル人材育成院には、日本人学生が自分の学部での専門教育をベースとしつつ履修できる特別コースがあります。海外体験を組み込んだプログラムにより、グローバル社会のリーダーとして実践的に活躍できる人材育成に取り組んでいます。

 岡山大学グローバル人材育成院 (okayama-u.ac.jp)

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

生きる技法

安冨歩(青灯社)

この本の著者は「自立とは多くの人に依存することだ」と述べています。私が研究している講義理解のストラテジー(方略)にも「わからないところを教師や友人に質問できる」が含まれるように、困った時に多くの人の助けを得られることは、学校や社会で生きていく一つの能力であるといえます。

 

また、この本で著者は友だちや愛、将来の夢についても深く語っています。この本を通して、進路や将来に悩んでいる時、どう生きることが自分にとって幸せなのかという視点を持つきっかけになるかもしれません。



ことば漬けのススメ(漫画)

宮崎里司、漫画:ますざわ梨紗(明治書院)

この本は、歴代の外国人力士へのインタビューに基づき、外国語を習得するコツについて書かれた『外国人力士はなぜ日本語がうまいのか』という本を漫画化したものです。

 

外国語を学ぶ環境作りという点で、相撲部屋の話以外に、海外での生活を最大限効果的に活用する秘訣についても書かれています。私がアメリカの大学に着任し、短期間で高度な英語習得が必要になった時に、この本の内容を思い出して実践していました。将来、留学したり、海外で働きたいと考えたりしている人におすすめの本です。



もう学校も先生もいらない!? SNSで外国語をマスターする《冒険家メソッド》

村上吉文(ココ出版)

この本には、外国語を教室の中で学ぶのではなく、YouTubeやFacebook、Twitterなどのソーシャルメディアを上手く利用し、自分自身で計画を立てながら主体的に習得していく方法が書かれています。

オンライン上で学習環境を作り、人との関わりの中で学習を進めていくことの意義や第二言語習得の理論に基づいた説明もあり、学生だけでなく教師にとっても参考になる本だと思います。



翻訳できない世界のことば

エラ・フランシス・サンダース、訳:前田まゆみ(創元社)

言葉が持つ意味や概念は、国の文化や習慣、何を大切にしているかによって異なるため、他の国の言葉ではうまく表現できない言葉というものが存在します。この本を通して、日本語には存在しない言葉と考え方の多様性に気づき、世界が多言語多文化であることを知ることができると思います。

 

将来、グローバルに海外と関係した研究や仕事をしたいと思っている人に読んでいただきたい本です。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

大学時代の専門は、文学部の人間学コース(倫理学専攻)でしたが、ここでは心理学、哲学的思考やディスカッションにより意見を整理していく力が身につきましたので、18歳に戻っても同様の学部を選ぶと思います。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

アメリカ。リベラルアーツの大学で勤務した経験から、教育システムの面で学ぶ点が多かったと思うから。

 

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 大学の日本語教員養成課程の先生からの依頼で、フィリピンから移住なさった方たちに日本語を教えに行っていました。日本語の学習ができて喜ぶ姿を見て「私がやりたいことはこれだ!」と思い、日本語教師の道に進むきっかけとなりました。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

昔から異文化に興味を持ち、大学時代にはバックパックを背負ってヨーロッパなどを一人旅していたくらいですので、日本語教師となって30年近くなった今でも、海外からの留学生と交流しているときはとても楽しいです。

 

Q5.会ってみたい有名人は?

Facebookを立ち上げたマーク・エリオット・ザッカーバーグ。