【教育社会学】

多文化教育

人種、民族、障がい、ジェンダー差別をなくす教育プログラムの開発を目指す

青木香代子先生

 

茨城大学

全学教育機構 グローバル教育センター

 

 出会いの一冊

コリアン世界の旅

野村進(講談社文庫)

私が多文化教育に興味を持っていることを知った在日コリアンの友人に勧められたのがこの本です。私にとっては、在日コリアンのことについて知る最初の本の一つであり、この後様々な本を読み漁ったのを覚えています。

 

なぜ、身近にいるはずの在日コリアンが「見えなく」されているのか。在日コリアンをめぐる状況は、近年変わってきていると思いますが、それでもこの本を通してまだ変わっていないところもたくさん見つかると思います。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

人種、民族、障がい、ジェンダー差別をなくしていくための教育とは

あらゆる人が平等に教育を受けられるべき

多文化教育は、文字のイメージから、「『多』くの『文化』について学ぶ」ものだと考えられがちなのですが、実はそれは多文化教育のアプローチの一部にすぎません。多文化教育というのは、あらゆる背景を持つ人が平等かつ公正に教育を受けられるべきという考えのもと展開されてきた哲学的概念であり、教育実践です。

 

食べ物、衣服、祭りを学ぶことが多文化教育ではない

 

しかし、実際に授業などで多文化教育として実践される時には、どうしても異なる集団(国や民族など)の食べ物(Food)、衣服(Fashion)、祭り(Festival)を学ぶ(これを3Fアプローチといいます)という、表面的な理解に陥りがちであるという批判がなされてきました。

 

不平等や差別に目を向ける

 

そこで、私が注目しているのが「社会正義のための教育」です。ここでいう社会正義(英語ではSocial Justice)は、人種、民族、経済的地位、障がい、ジェンダー、セクシュアリティ、宗教など、様々な社会的集団に対する不平等や差別的扱いに対し、それらが起こっている、あるいは生み出されてきた背景やシステム、人々の意識について、制度的、文化的、個人的側面から分析し、変えていくことを目指すものです。

 

社会正義のための教育は、アメリカ合衆国を中心に展開されてきたため、私の研究ではアメリカでどのように社会正義のための教育が実践されてきたか、ということを参考に、日本における社会正義のための教育のプログラム開発を目指しています。

 

2019年9月に実施したサンフランシスコ・ボランティア海外短期研修の様子 (※残念ながらこのプログラムは現在行っていません)。この研修では、アメリカ・サンフランシスコ・ベイエリアにおいて、貧困、教育、街づくりなどの社会問題をボランティアや学校訪問などの交流を通して学びました。写真は、サンフランシスコにあるNPO団体で、無料のランチ(サンドイッチ)を準備しているところです。
2019年9月に実施したサンフランシスコ・ボランティア海外短期研修の様子 (※残念ながらこのプログラムは現在行っていません)。この研修では、アメリカ・サンフランシスコ・ベイエリアにおいて、貧困、教育、街づくりなどの社会問題をボランティアや学校訪問などの交流を通して学びました。写真は、サンフランシスコにあるNPO団体で、無料のランチ(サンドイッチ)を準備しているところです。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

国連は、世界人権宣言において、人種、民族、性別、宗教、出自等による差別を禁止しています。社会正義のための教育においては、あらゆる形の抑圧や差別に対抗するための知識や行動スキルを身につけることを支援します。SDGsでも教育、ジェンダーの平等、不平等について扱われているものは、これにあたると思います。

 

 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「社会正義のための多文化教育のプログラム開発と実践」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

森茂岳雄

中央大学 文学部 人文社会学科 教育学専攻/文学研究科 教育学専攻

多文化教育、国際理解教育、移民学習、博物館学習、異己理解について研究されています。日本における多文化教育の第一人者の一人です。一緒に研究させてもらうことも大変光栄で、何より、研究にかける姿勢にいつも刺激を受けています。

森茂先生のページ


Shabnam Koirala-Azad

University of San Francisco School of Education 

グローバルシティズンシップ、グローバル化とトランスナショナリズム、移民と教育、ジェンダーと教育について研究されています。私の大学院時代のアドバイザー(日本でいう指導教員)です。西洋中心主義的になりがちな教育に対して批判的な視点は、それに対して無意識だったことに自分も気づかされ、今でも影響を受けています。

Koirala-Azad先生のページ


松尾知明

法政大学 キャリアデザイン学部 キャリアデザイン学科

【多文化教育、カリキュラム】日本における多文化教育の専門家の一人で、書籍も数多く出版されています。多文化教育だけでなく、多文化共生やコンピテンシーについても大変詳しい方です。

松尾先生のページ

 


 どこで学べる?

「教育社会学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

21.教育・心理」の「86.教育学、教育行政学、教育社会学」

 


 先生の講義では

◆講義「多文化共生」で最初に取り上げること

 

アイデンティティについて話します。アイデンティティとは、簡単に言えば「自分とは誰か」ということですが、「自分とは誰か」を決めるのは誰でしょうか。社会において「マイノリティ」とされる人たちは、この「自分とは誰か」を、他者から決められてしまう場合もあります。それはなぜなのか考えるところから、私の授業は始まります。

  

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
 先生の学部・学科は?

私が所属している全学教育機構では、主に1年生の基盤教育を担当する科目を担当しています。私はグローバル教育センターといって、留学生向けの日本語の授業や、日本人と留学生が一緒に履修する授業を担当する部署の所属です。

 

これらの授業には、日本語開講のものと、英語開講のものがあります。1年生から英語「で」勉強する授業があり(私も担当しています)、大変ですが、同時に留学生から刺激を受けることも多いと思います。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

サトコとナダ(漫画)

ユペチカ、監修:西森マリー(星海社COMICS)

今までうっすらと知っていたイスラム圏の文化や、イスラム教のこと、ムスリムの人たちのことを、「サトコ」という日本人の大学生の目線を通して学ぶことができます。

 

同時に、日本の人が当たり前に考えていた価値観も、実は閉鎖的な見方だったかも、とハッとさせられる発見もあると思います。サトコがアメリカ留学中に、ナダというサウジアラビアの女の子に出会うという設定なので、留学に興味がある人も参考になるかもしれません。



二つの祖国

山崎豊子(新潮文庫)

第二次世界大戦の際に、日系アメリカ人が強制収容所に入れられたことは、意外にもあまり知られていません。しかし、日系アメリカ人をめぐるこの問題は、「国」とは何か、移民するとはどういうことか、移民一世を親に持つとはどういうことかなど、現代にもつながる様々なテーマについて考えさせられると思います。



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ヘイト・ユー・ギブ(映画)

ジョージ・ティルマンJr.(監督)

アンジー・トーマスの原作『The Hate U Give』を映画化したものです。黒人が多く住む地域で生まれ育った主人公のスターは、白人生徒がほとんどの私立学校に通っていますが、ある日、黒人の友達と出かけていた際に、友人が警察暴力の犠牲になってしまいます。

 

しかし人種差別は、「暴力」という形だけで表れているのではなく、人々の行動や考え方、教育、司法、様々なところに及んでいます。私の研究は、このような様々な形の抑圧に対抗するための教育を実践していますが、そのような視点でこの映画を見ると、違う見方ができると思います。教材としても使ってみたい作品の一つです。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

理系なら生物学や環境学をやってみたいです。文系なら、おそらくまた同じようなことに興味を持つと思うのですが、学部からやるならアメリカ史(歴史学)をじっくり学びたいです。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

台湾は、機会があれば住んでみたいです。一度旅行に行ったのですが、なぜかふと「ここなら暮らせそう」と思いました。

 

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ステップ!ステップ!ステップ!』というドキュメンタリー映画。ニューヨークの公立小学校の4~5年生が社交ダンスに挑戦し、コンテストに参加するまでの過程を描いています。子どもたちの生き生きとした姿がとても印象的で、教育の方法は一つではないことに気づかされる映画でもあります。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

読書、と言いたいところですが、なかなか時間が取れていません。2年程前に挑戦した和菓子作りがすごく楽しかったので、またやりたいなと思っています。