【社会心理学】

チーム内での妬み

リーダーとの関係が悪いと妬みが生まれる

山浦一保先生

 

立命館大学

スポーツ健康科学部 スポーツ健康科学科(スポーツ健康科学研究科)

 

 出会いの一冊

ハイキュー!!(漫画)

古舘春一(ジャンプコミックス)

学生に薦められて読み始めました。バレーボールをやっていたその昔を思い出したり、部活動等を頑張っている学生たちの様子と重ねたり、研究の参考にしたりしながら読んでいるうちにはまってきました。

 

心の傷や劣等感を持ったメンバーたちが、初めは反発し合いながら、難題にぶつかりつつも、一つのハイキュー(排球)のチームになっていく。「チームになる」とはどういうことか、「必要なコミュニケーション」とはどういうものか等々を教えてくれます。絵の力とともに言葉(短くわかりやすい文章)の力で、バレーボールに詳しくない人でも、ルールを理解しながら楽しむことができます。このような伝え方も学びたいところです。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

リーダーとの関係が悪いと妬みが生まれる

よい上下関係でチームを成長させたい

妬みの感情は、七つの大罪の一つで、古くから災いを招くものとして扱われてきました。そして最近になって、リーダーとの関係が悪いフォロワー(リーダー以外の部下や選手など)は、妬みを抱きやすいことがわかってきました。でも、この妬みを抱くフォロワーは、常に“悪”なのでしょうか。

 

“上下関係”を良好に保つことは難しいことです。でも、気持ちよく付き合い、そこで自分やチームを成長させられるといいですよね。

 

私が一層強くそう思うようになったのは、福知山線脱線事故がきっかけです。事故原因が様々に指摘され、その一つに上司と部下の関係性が挙がったのです。このような痛ましい事故が繰り返されないように、“上下関係”で生じる現象をとことん追究しようと思いました。

 

信頼関係がなければ、ほめ言葉も逆効果になる

 

その後、私たちの研究で、上司のほめ言葉が部下にポジティブな効果を持つのは信頼関係が作られている時で、そうでない時には逆効果すらあることを明らかにしました。では、既に信頼関係が壊れ(かけ)ている場合にはどうすればいいのか等、謎解きは続きます。

 

妬みを抱きやすいフォロワーがチームの起爆剤になれば

 

リーダーとの関係性が悪いフォロワーは、その関係性が良いフォロワーのことを妬みやすくなり、チームに悪影響を及ぼすことがあります。ただ、この研究では、妬みを抱きやすい状態になったフォロワーにはエネルギーがあると考えています。ですから、条件さえ整えば奮起してチームの起爆剤にもなるのではないかと。どんな境遇の人も、十分に力を発揮できる組織・社会になったらいいなと思いながら研究をしています。

 

帰国前、在外研究のラボのメンバーとパエリア村に出かけた帰り(写真撮影者もメンバーの一人)
帰国前、在外研究のラボのメンバーとパエリア村に出かけた帰り(写真撮影者もメンバーの一人)
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

私は、産業界・企業やスポーツチームを対象に、人間関係の観点から研究を続けています。特に、企業組織で働く時間を考えると、人生全体の3分の1かそれ以上です。その時間やその場所を快適にすること、取り組む仕事が好きでやりがいを感じられるようにすることは、人生を豊かにすることにつながると思っています。共同研究者やゼミの学生たちと一緒に考える中で、効果的な方法を1つでも2つでも見つけて、社会に発信していきたいと思っています。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「リーダー-メンバーの関係性によって生起するチーム内の妬み感情:その緩和条件の解明」

詳しくはこちら

 

 注目の研究者や研究の大学へ行こう!

Vicente González-Romá

バレンシア大学

組織の人間関係構築、組織風土の醸成に関する研究をしています。在外研究の際、とてもあたたかく迎え入れていただきました。理論展開や方法論の厳密さとともに、研究室等の運営の在り方などに至るまで、理論と実践の両輪で学ぶことが多くありました。

Vicente González-Romá先生のページ

 


 どこで学べる?

「社会心理学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

21.教育・心理」の「87.教育心理学、社会心理学、実験心理学」

 


 先生の授業では

ゼミに配属された時に学生に伝えていること

 

自分たちが学びたいことを、学びたい方法で学ぶ。それを自分たちで話し合って決める。これが、ゼミでの最初のお題です。のびのびと活動し、自由に発想し感じたことを研究すること、そのためのサポートは引き受けると伝えています。

  

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
オランダ・アムステルダムで行われた学会で、発表を終えてひと息ついたときの集合写真。
オランダ・アムステルダムで行われた学会で、発表を終えてひと息ついたときの集合写真。
大学院でグループワーク/ディスカッションとそれを踏まえた講義を行っています。(学部のゼミも同様の内容や雰囲気で行っています。)
大学院でグループワーク/ディスカッションとそれを踏まえた講義を行っています。(学部のゼミも同様の内容や雰囲気で行っています。)
 先輩にはこんな人がいる ~就職

※幅広い業種・職種に就いてくれているのがOBOGゼミ生たちの特長ですが、強いて言えば下記の傾向が見受けられるかと思います。

 

◆主な業種

 

(1)食品・食料品・飲料品/タバコ・飼料・肥料

(2)マスコミ(放送、新聞、出版、広告)

(3)小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

 

◆主な職種

 

(1)営業、営業企画、事業統括

(2)人事・労務・研修、その他人事系専門職

(3)中学校・高校教員など

 

◆学んだことはどう生きる?

 

国税専門官になった卒業生は、大口かつ悪質な不正を行う法人を対象にチームで調査を行い、不正申告・虚偽を解明すること、そして、それをもとに適正な申告をするように納税者を指導していくことを仕事としています。特に、納税者の反応から考えていることを推測し、話を進めていくことは一番難しいそうですが、心理学をベースに対人コミュニケーションを学んだことで、相手を円滑に説得かつ納得させることができていると感じているようです。

 

 先生の学部・学科は?

現在所属しているスポーツ健康科学部には、スポーツ、健康をキーワードに、遺伝子や細胞のレベルから集団・社会的なレベルまでを捉えて、学際的な教育研究を展開しています。また、3.0T-MRIに象徴されるような学部の教育研究環境の充実、および各分野、第一線で研究しているスタッフ陣の研究力の高さはもちろん、教職員と学生の交流は中高生のみなさんがイメージしている大学像よりも活発で、学生の興味や関心に沿った丁寧な対応・教育を行っています。

 

参考図書として『グローバル・アスレティックトレーナーがつくるスポーツの未来のかたち』(立命館大学スポーツ健康科学部GATプログラム編、晃洋書房)があります。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声

ペーター・ヴォールレーベン、訳:長谷川圭(早川書房)

静かな森の中に、樹木たちが関わり合う社会があるそうです。互いにコミュニケーションをとり、時には争いも繰り広げながらも、親子や仲間と助け合う樹木たちの様子は感動すら覚えます。この世の中のどんな生き物にも、“そこに存在すること”ができる何かがあるようです。それが何か、この本を読みながら考えを巡らせてみてください。

 

それにしても、こんなシステムを持っている樹木からすると、人間社会はどう見えるのでしょうか。どこかで一度は、手にしてみてほしい一冊です。



データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

矢野和男(草思社)

目に見えない心(で感じるもの)を客観的なデータで表現することができるのか……そう疑問に思っている人におススメしたい本です。運を引き込み、自分や周りの人の幸せを生むには何が必要なのか、それもこの本の中で紐解かれています。人間やその心を解明するという魅力的な世界、そしてそれぞれの分野を越えて協働することで見えてくる新しい世界へと誘ってくれる本です。



日本人の誇り

藤原正彦(文春新書)

私たちは、日本人として生まれた事実は変えられません。でも、世の中は今、人種を越え国境を越え、グローバル化が進んでおり、良くも悪くも様々な影響を受け続けています。

 

この本を読むと、この動きに流されるだけでなく、史実を自分で学び判断すること、そして日本(人)の美徳に改めて気づき、それを持ち続ける強さを備えていくことで、今どきの新たな価値を生み出すことができます。私たちはもっと(いい意味での)自信を持っていい――そんなことを改めて認識させてくれます。



カモメになったペンギン

ジョン・P・コッター、ホルガ―・ラスゲバ―、訳:藤原和博(ダイヤモンド社)

“氷が溶ける!” ずっと平和に過ごしていた中でそれに気づいたのは、ちょっと変わり者のペンギン・フレッド。そこから話は始まります。実際、今は気づいている人が自分だけ、あるいは、気づいている人は複数いても、今は到底できないことだと思われているという困難な状況を経験することがあるかもしれません。

 

ただ、私たちが環境の変化に適応して生き続けるには、少数派や一見変わり者の、ちょっとした気づきを活かしきらなければなりません。ここに出てくるペンギンたちの反応は、人間社会そのものです。このペンギンたちは平和を取り戻せるのか。ダイナミックに変動する集団・チームのプロセスを眺めてみてください。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

(やっぱり、もう一度)心理学。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

スペイン。マチの人たちが陽気(でいようとしていること)。人との関わりを大切に育てようとしているから。

 

Q3.一番聴いている音楽アーティストは?

いろいろ聴くので難しいですが…Billy Joel、いきものがたり、それから最近の一番はKING GNUです。それぞれの一番を挙げるとしたら『Honesty』、『ありがとう』、『飛行艇』です。それと、『Hallelujah』はスペインで生活していた時に、ちょっとした出来事で知った楽曲なのですが、Pentatonixが歌うものがお気に入りです。また、NHK BS1の『駅ピアノ』は、いろんな楽曲が聴けるので好きです。特に、その国の人たちの人生・生活と音楽が結びついて様々なストーリーがあるので、とても魅力的です。

 

Q4.感動した映画は?印象に残っている映画は?

ディズニー&ピクサーのアニメ『インサイド・ヘッド』です。

 

Q5.研究以外で楽しいことは?

学生たちの試合を観戦すること。ドライブで遠出すること。運転していいと言われれば、いつまでも、どこまでも行きます!