【基礎法学】

信託

政治・経済の根幹は「信託」。国際化時代に信託関係を築くには

溜箭将之先生

 

東京大学

法学部(法学政治学研究科)

 

 出会いの一冊

信託の世界史 10のテーマで学ぶ信託とフィデューシャリー・デューティーの起源

友松義信(きんざい)

この本を書いた人は、三菱UFJ信託銀行信託博物館の初代事務局長です。信託についてあらゆることを知っていて、信託の博物館を作ってしまった人です。その人が、信託の歴史の深さと世界的な広がりを魅せます。

 

「信じて託する」と書いて、信託。信託を活用するかどうかで、人が幸せになるかどうか、社会が豊かになるかが変わります。日本人が日本人を信頼するだけではなく、どこの国の人も世界中の人を信頼できるようになったらいいですね。

 

でも、人が人を信じ、人が人に大事なものを託せる国や世界は、すぐにはできません。どうしたらいいでしょうか。専門用語も多いかもしれませんが、東京駅前にある三菱UFJ信託銀行信託博物館に行けば、映像や展示もあるのでわかりやすく理解できるはずです。こちらにも、ぜひ、足を運んでみてください。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

政治・経済の根幹は「信託」。国際化時代に信託関係を築くには

銀行や政府は「信託」があって成立する

あなたには、信頼できる人がいますか。お父さんやお母さん、兄弟姉妹、学校の先生、近所の人。でも、家族がいない人もいます。学校でいじめられた人もいるかもしれません。

 

あなたは、見知らぬ人を信頼できますか。皆さんのお父さんやお母さんは何十万円、何百万円あるいはもっと、銀行を信頼して預けているかもしれません。

 

あるいは、政府を信頼して高い税金を払っています。菅首相のような政治家は、皆さんに代わって国の大事なことを決める人たちですが、信頼できますか。

 

法律も信託の仕掛けのひとつ

 

日本国憲法の前文には、「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるもので」という一節があります。

 

私の研究のキーワードは「信託」。人が人を信じて物事を託せる社会や国は豊かになります。人々の間に不信感が満ちていると、社会は荒み人々は不幸になります。

 

では、どうすれば人々が互いに信頼できる社会を作れるのでしょうか。

 

法律は、見知らぬ人同士が信頼できるようにする仕掛けの一つです。でも、人を信じない奴は逮捕すると言って、人が互いに信頼しあうようになるほど、世の中は単純ではありません。では、どういう仕掛けが必要なのでしょうか。

 

国や文化が違えば信頼の仕方も違う

 

国際化の時代、皆さんも外国に行くかもしれないし、外国のサイトから物を買うかもしれません。外国で初めて会う人とも、互いに信頼して交流・取引できるといいですね。

 

文化も違えば信頼のしかたも違います。国や文化の違いを超えて、どうやって信頼を築きますか。これも私の研究テーマです。

 

アメリカで在外研究中、ハーバード・イェンチェン研究所での報告
アメリカで在外研究中、ハーバード・イェンチェン研究所での報告
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

投資という言葉を知っていますか。お金を人に託して、その人が儲かったら、儲けの一部を返してもらう、そういう取引です。なんだ、お金儲けかと思うかもしれません。でも、そのお金儲けの過程で、私たちの暮らす地球の環境をより良くするプロジェクトが進んだり、貧しい人が安全に働き、きちんと給料が支払われる職場ができたりするといいですね。そうした取り組みを活発にしようという運動が進んでいます。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「法規範の国際的な伝播と変容に関する法分野横断的研究」

詳しくはこちら

 

 注目の研究室や研究の大学へ行こう!

ロバート・シットコフ(Robert Sitkoff)

Harvard Law School

【信託についての法と経済学】市場経済でどういう法制度を作ると、財産を効率良く増やし、より安全に管理できるかを解明しています。法律と経済学の知識を総動員した議論の明快さには、感心させられます。

ロバート・シットコフ先生のページ 


ルシーナ・ホー(Lusina Ho)

The University of Hong Kong Faculty of Law

東アジアの信託法を研究しています。香港出身で、オックスフォード大学を卒業した秀才です。イギリスの法律と、中国や香港など東アジアの法律を広く理解しており、分析も鋭いです。

ルシーナ・ホー先生のページ 


ステリオス・トファリス(Stelios Tofaris)

University of Cambridge Girton College Faculty of Law

イギリスとインドの、契約と信託についての法律と歴史を研究しています。キプロス出身。インドの法律を研究しつつ、イギリスのケンブリッジ大学のガートン・カレッジで教えています。世界の見方や歴史のとらえ方に影響を受けました。

ステリオス・トファリス先生のページ 

 


 どこで学べる?

「基礎法学」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

18.社会・法・国際・経済」の「73.法律学」

 


 先生の授業では

◆講義「法のパースペクティブ」では

 

直近のニュースを事例として取り上げて話します。例えば最近では、「日産のゴーン元会長がレバノンに逃亡しました。日産はゴーンに騙されたと言い、ゴーンは日本の検察や裁判所は信頼できないと言い、議論は錯綜しています。誰の主張が正しいのでしょうか。海外の人はこの事件をどう見ているか、想像してみてください」といったことを話します。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
青山学院・立教大学・東京大学の合同でオックスフォード大学でサマープログラムをしています。サマープログラムでのセミナーの一コマ。
青山学院・立教大学・東京大学の合同でオックスフォード大学でサマープログラムをしています。サマープログラムでのセミナーの一コマ。
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 商社

(2) 金融・保険

(3) 公的法人で基礎・応用研究職

 

◆主な職種

 

(1) 法務、知的財産関連の仕事

(2) 金融・ファイナンス系専門職

(3) 基礎・応用研究職

 

◆学んだことはどう生きる?

 

法律は、ビジネスの世界でも政治の世界でも、あるいは身の回りの安全や地域活動でも、様々な分野で使われます。金融機関に就職して高度な金融取引に関わっている卒業生もいれば、商社に就職して国際的な取引に関わっている卒業生、地方自治体で行政に関わっている卒業生、あるいは公益法人でNGO(政府以外の公益に関わる仕事)の活動に取り組んでいる卒業生もいます。

 

 先生の学部・学科は?

東大法学部の先生は、日本の法律を全部知っているのでしょうか。いいえ、日本の最先端の先生でも、それは無理です。日本の今の法律のどこが問題で、どう変えれば日本が良くなるか、いや世界が良くなるか、それを日々考えているのが東大法学部の先生です。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

AIの時代と法

小塚荘一郎(岩波新書)

法学部では分厚い法律の本を暗記するのでは、と思っている人が多いと思います。でも、違います。自動運転、GAFA、仮想通貨、シェアリングサービスが広がり、社会が変わる時、社会を支える仕組みである「法」はどう変わるべきか。実は答えのない問題に取り組むのも、法律家の仕事なのです。



盗賊のインド史 帝国・国家・無法者

竹中千春(有志舎)

インドで、「盗賊の女王」から1996年に国会議員となったプーラン・デーヴィーに、立教大学の竹中先生が突撃インタビュー。その後プーラン・デーヴィーは暗殺されます。「法律は、世界平和と自由と平等」と思っていたら甘かったのです。帝国主義、暴力、男女差別、貧富の格差、世界には今も様々な矛盾があります。では、私たちはどうすればいいのかを考えさせられる一冊です。



What About Law? Studying Law at University

Catherine Barnard、Janet O’Sullivan、Graham Virgo(Hart Pub Ltd)

「法学部でもいかがでしょう?」。イギリスのケンブリッジ大学で、第一線で活躍している先生たちが、法律を学ぶことの面白さと難しさを、高校生目線で語ります。難しいことをわかりやすく伝え、一見簡単なことの裏にある深い問題を考えさせます。本は英語ですが、チャレンジしてみてください。 

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

法律学

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

コスタリカ。自然を大切にし、軍隊を持たない国だから。

 

Q3.大学時代の部活・サークルは?

水泳部で水球をやっていました。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

タイに住んでいる息子と、オンラインゲームをすることです。