Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
スペインかイタリア。文化が全体に明るく、楽しいので。
【基礎法学】
グローバル行政法
グローバル企業の作るルールはフェアか。EUとイギリスの対応を検証
中村民雄先生
早稲田大学
法学部(法学研究科 公法学専攻)
EUとは何か 国家ではない未来の形
中村民雄(現代選書)
まさに高校生の皆さんに読んでもらいたくて書いた、EUについての概説です。EUは国家ではありませんが、ヨーロッパ諸国の共通の統治組合で、国のように共通法を立法するものです。
世界中を見ても、広域の共同統治組合はEU以外にはありません。世界中で人々が越境的に活動する今、国を超えた問題について、国以上世界未満のEUという統治体はどれほど力を発揮できるのでしょうか。それをこの本で考えています。
グローバル企業の作るルールはフェアか。EUとイギリスの対応を検証
国境を超える人間の活動、超えない国の法律
皆さんは、法律というと国が作る立法をイメージするでしょう。それは正しいです。
皆が選んだ代表が議会で議論して作ったルールに皆が服する。これは民主的社会の基本です。そして、社会の紛争を皆が作ったルールで公平に解決する。これは法の支配に徹した社会の姿です。
ところが今日では、こうした法律の姿や法の支配が通らない場面が増えています。ネット上の活動のように、人間の活動は国境を超えるのに、国の法律は国を超えては及びません。
現実に追いつかない伝統的な法作り
伝統的には、越境的な問題は、国同士や国際機関がルール(国際条約)を作ってきましたが、時間がかかります。この手法では、日々進展するグローバルな活動にルールが追いつきません。
その結果、私たちは今、世界市場で優越的な一部の企業・団体が作る私的ルールを受け入れなければ、それらが提供するサービスを受けられない状況にあります。
EU・英・日の比較から考える
でも、この状況はフェアなのでしょうか。世間の大部分の人に関わる私的なルールを、企業が一方的に作るのがフェアで正しいと言い切れるでしょうか。 これが私の今の研究の原点をなす疑問です。
私はそこで「グローバル行政法」という新たな学問領域を立てて、国以上世界未満の統治体EU、そこから脱退したイギリス、この二つがグローバルな私的ルールにどう対応してきたのか・いくのかを観察し、また日本とも比較しながら、グローバルな私的ルールをいかに規律すればよいかを考えています。
早稲田大学比較法研究所で、共同研究をしました(『持続可能な世界への法―Law and Sustainabilityの推進』2020年刊行)。その中で、
(1)現行の近代法の基礎概念(財産「所有権」など)が権利行使の社会的文脈たる自然を無視しているため、自然資源の無限の消費や破壊を止める力をもたない点を指摘し法改正を促す
(2)人間が地球の生態系の持続可能性を維持する義務を集団としても個人としても負うことを法に明文化する(憲法改正により生態系維持義務を定めるなど)
といったことが適切だという結論に至りました。
上記から、この研究は、持続的な環境作りに関する12.「つくる責任つかう責任」、14.「海の豊かさを守ろう」、15.「陸の豊かさも守ろう」などに直結します。しかし、潜在的には6.「安全な水とトイレを世界中に」から17.「パートナーシップで目標を達成しよう」のまでのすべての目標と関連すると思います。
◆先生が心がけていることは?
自転車通勤。マイバッグ、マイカップ、マイボトルを持参し、プラごみを減らすこと。
法学は、物事を一方だけでなく他方からも見る、第三者の目からも見るといった、多角的かつ複眼的な思考法の訓練です。これは社会の紛争解決だけでなく、日常生活での話し合いや交渉事でも同様に使える能力です。私の研究は世界大の視野で、日本の法そのものが正解ではないかもしれないという気持ちで外国の法と比較していますから、広く物を複眼的に見る目は、さらにグローバルに広がります。
◆主な業種
(1)官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2)金融・保険・証券・ファイナンシャル
(3)商社・卸・輸入
◆主な職種
(1)法務、知的財産・特許、その他司法業務専門職
(2)経理・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・財務・金融系専門職
(3)人事・労務・研修、その他人事系専門職
◆学んだことはどう生きる?
ゼミ卒業生のひとりは外務省に就職しました。まさに世界において日本が果たせる役割を考えて行動する職業です。その卒業生は、現在は、日本の途上国に対する開発援助政策を担当しています。
別のゼミ卒業生は、貿易商社で海外取引を担当しています。国境を超えたビジネスの最前線で、まさにゼミで勉強してきた日本と外国の法を比較しながら、より良い法を考えるという能力を契約交渉などで発揮しています。
歳月
司馬遼太郎(講談社文庫)
江戸から明治へと変わった時、西洋の近代法を日本に移入する最前線に立った政治家、江藤新平の悲壮な生涯を描きます。今の私たちの生活を支える法が、こうして明治期に初めて導入されたことを、生々しく知ることができます。
敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人
ジョン・ダワー(岩波書店)
第二次大戦に敗れた直後日本の、ごく普通の人々が、それぞれにたくましく復興・復活していった様を描きます。ともすれば忘れがちな私たちの日常生活が、歴史的な流れの中にあることを想起させてくれます。外国人ならではの、感傷的にならずユーモアにあふれた社会の実像の描き方にも、教えられるものがあります。
動物裁判
池上俊一(講談社現代新書)
中世のヨーロッパでは、豚が子供を押し殺した、イナゴが作物を食べたといった罪で、真面目に裁判にかけられていました。そして、その動物には弁護士まで付いていました。笑ってしまうようなことが、なぜ大真面目に行われていたのか。近代の「理性」が登場する以前だったからです。
でも、この本から、ふと思いもします。ならば近代の「理性」はつねに正解をもたらす完璧なものでしょうか。地球環境問題は、なぜ出てくるのでしょう。娯楽的な一冊ですが、私たちの「理性」の問題点も逆照射してくれます。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ?
スペインかイタリア。文化が全体に明るく、楽しいので。
Q2.大学時代の部活・サークルは?
古都古寺研究会。日本の古美術が好きです。
Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?
大名行列の道中奉行役。ちゃんと裃を着ました。
Q4.研究以外で楽しいことは?
合唱と登山