【ヨーロッパ史・アメリカ史】 

議会制

国王と議会は意外に協調。議会制民主主義の歴史を探る

堀越宏一先生

 

早稲田大学

教育学部 社会科(教育学研究科 社会科教育専攻)

 

 出会いの一冊

ノートル=ダム・ド・パリ

ユゴー、訳:辻昶、松下和則(岩波文庫)

ディズニーのアニメ映画『ノートルダムの鐘』の原作です。アニメではハッピー・エンドみたいですが、原作は、主要な登場人物は皆死んでしまうという悲劇です。ドラマチックなストーリーとともに、舞台となった1482年のパリの町の様子が手に取るように具体的に、そして細部に至るまで正確に描かれています。

 

少し難しく聞こえるかもしれませんが、「書物が建物を滅ぼすだろう」(第5編2)という文章が出てきます。これを説明すれば、15世紀前半に印刷術が発明されて、活字の本が大量に流通する以前には、小説の舞台となったノートル=ダム大聖堂のような教会建築が、建物それ自体とともに、それを飾る石造彫刻、壁画や碑文、そこで演奏される音楽などの形で、ひとつの思想を表現する唯一の場となっていたということです。現在では聞かれることのない、そのような優れた観察がたくさん盛り込まれています。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

国王と議会は意外に協調。議会制民主主義の歴史を探る

歴史的背景を知り、今を理解する

歴史を勉強する意味というと、「過去を学んで、未来に活かす」という答えが多いのですが、歴史の勉強から未来がわかることはありません。歴史の勉強の目的は、現在の私たちを取り巻く様々なことがらをよりよく知ることです。

 

なぜ私たちは和服ではなく、洋服を着ているのでしょうか。なぜ議会制民主主義、なぜ資本主義なのでしょうか。それらのことがらの歴史的背景を知ることで、現在の自分や社会をより深く理解できるのです。

 

古代ギリシアの直接民主制から

 

私の研究テーマの一つは、この議会制民主主義の歴史を考えることです。古代以来、律令制の下で天皇が絶対的支配を行ってきた日本とは異なり、ヨーロッパでは、古代ギリシアの直接民主制から始まって、自由な個人という大前提の下で、万人が納得できる政治のあり方が模索されてきました。その工夫の一つが、代表制議会です。

 

15・16世紀のフランスなどの議会の記録を調べる

 

王様がいた昔には、その独裁を抑えるために、議会が開かれたというのが従来の通説なのですが、15・16世紀のフランスなどの議会の記録を調べると、意外なことに、議会に集まった国民代表と国王の関係は、とても協調的なのです。

 

国民は国王の支配が安定し、平和な世の中であるために、国王の要求を受け入れる一方、国王も国民の権利をむやみに脅かさないように配慮しています。

 

これまであまり知られていなかった、そのような議会と国王の間の協調的な交渉を手掛かりに、現在の議会制民主主義が生み出されていった歴史を研究しています。

 

背景はパリのサン・マルタン運河。水利用の歴史はとても面白く、私の大学の卒業論文のテーマは、中世フランスの水車でした。
背景はパリのサン・マルタン運河。水利用の歴史はとても面白く、私の大学の卒業論文のテーマは、中世フランスの水車でした。
 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

なぜ戦争するのか、なぜ格差社会なのかなど、現在の様々な問題を考える際、その歴史的背景を考えることは、一番手っ取り早い手掛かりです。ヨーロッパの歴史の優れている点は、古代以来、人間個人と社会とのあるべき関係を、いつも考え続けていることで、しかも、それぞれの時代に書かれた本を読むことで、その思索の跡をたどることができることです。人間の考えることなど、おおむね似ているわけで、現在でも聞くに足る多くのアイデアが、そこにあります。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「中近世ヨーロッパの身分制議会における君臣間の合意形成プロセスの解明」

詳しくはこちら

 どこで学べる?

「ヨーロッパ史・アメリカ史」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「83.史学、考古学」

 


 先生の授業では

講義「西洋史概説」では

 

中世ヨーロッパの城が、城主の住居であると同時に、周辺領域を支配する拠点だったことなどをよく取り上げます。13世紀以降、そのような小さな支配領域が統一されて、現在に至る領域的国家が生み出されていったことがとても重要だからです。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
中部フランスのクリュニー修道院の門前町に残る、ヨーロッパ最古の町家のひとつの前で。中世の住宅も、私の研究テーマの一つで、ここでは、1階入口のゴシック式アーチと2階の窓のロマネスク式装飾の共存が、12世紀の建築の特徴を示しています。
中部フランスのクリュニー修道院の門前町に残る、ヨーロッパ最古の町家のひとつの前で。中世の住宅も、私の研究テーマの一つで、ここでは、1階入口のゴシック式アーチと2階の窓のロマネスク式装飾の共存が、12世紀の建築の特徴を示しています。
 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(2) 金融・保険・証券・ファイナンシャル

 

◆主な職種

 

(1) 中学校・高校教員など

(2) 経理・会計・財務、金融・ファイナンス、その他会計・税務・金融系専門職

 

◆学んだことはどう生きる?

 

中高の教員になった卒業生が印象に残りますが、まだ若い人たちが多いので、業績という点では、これからに期待しています。私のゼミでは、私の専門や研究テーマを含めて、表面的な歴史の知識を受け身の形で学ぶのではなく、学生自身がそれぞれ関心のある情報を集めて、それを批判的に分析し、自分なりのやり方でまとめ上げるという方法の習得を常に求めてきました。中高の教員としても、歴史の教科書に書かれていることを教室で語るだけではなく、その背後にある歴史の見方を生徒たちに教えてくれることを期待しています。

 

 先生の学部・学科は?

早稲田大学教育学部は、中高の教員養成をそもそもの使命として作られた学部なので、基本的には、そのような中等教育に関する研究と教員養成がカリキュラムの中心です。社会科の場合、歴史(日本史・世界史)と地理を専門とする先生たちの寄合い所帯になっています。先生方は、地理と歴史の標準的な研究者なので、意外に文学部的な授業や教科内容になっています。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界

阿部謹也(ちくま文庫)

「ハーメルンの笛吹き男」という有名な伝説が、実は1284年に起こった本当の話だったことを知った阿部さんが、いろいろな仮説を立てて、その真実の解明に取り組んでいきます。その中で、中世ドイツの都市の民衆の姿が浮かび上がってくるところに、ワクワクしました。



砂糖の世界史

川北稔(岩波ジュニア新書)

砂糖だけでなく、紅茶やコーヒー、チョコレートは、世界各地で生産されたものが、イギリスなどのヨーロッパ諸国に運ばれて消費された「世界商品」です。それらのモノを出発点として、経済だけでなく、近世の世界の歴史全体を語っている本です。



木綿以前の事

柳田国男(岩波文庫)

天皇や将軍、大名などの支配者の事績ではなく、庶民の生活の歴史をたどるのが、柳田国男が目指した民俗学です。この本は、明治維新以前の衣服や食事についてのエッセイ集で、「木綿以前の事」というのは、その巻頭の1編です。それまでごわごわして硬い麻織物を着ていた庶民が、江戸時代に柔らかく着心地の良い綿織物を着るようになった変化を印象的に描いています。ただし、綿ぼこりも生み出したのですが。

 


 先生に一問一答

Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やっぱり歴史学。

 

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

フランス。研究の対象でもあると同時に、お店や通りすがりの人でも、きちんとコミュニケーションを取って会話してくれるから。みんな、冗談がとても上手です。

 

Q3.大学時代の部活・サークルは?

狂言研究会。オペラでも歌舞伎でも、とにかく演劇が大好き。

 

Q4.研究以外で楽しいことは?

暖炉のための薪割り。木の種類の違いや、同じ種類の木でも一本一本の個性が面白い。