【日本語教育】

日本語教育史

アメリカへ移民した日本人は日本語や日本文化をどう伝えてきたか

森本 豊富(もりもと とよとみ)先生

 

早稲田大学

人間科学部 人間環境科学科(大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 文化・社会環境科学研究領域)

 

 出会いの一冊

海を渡った日本人

岡部牧夫(日本史リブレット)

移民とは何か、移住先の類型、移民の出身地、移民の送出要因、アメリカ本土・ハワイ、ブラジル、満洲、東南アジアなどへの移民、移民の職業と個人史についての概説書です。日本人がいつ、どこからどこに、どのようにして渡ったのか、また渡航した定住先でどのような経験をしたのかについて知りたい人にとって、手頃な入門書です。

 


 こんな研究で世界を変えよう!

アメリカへ移民した日本人は日本語や日本文化をどう伝えてきたか

アメリカ留学で日系人に興味を持った

アメリカへ渡った日本人とその子孫たちについて研究しています。そのきっかけは、ロサンゼルスにある大学院への留学でした。そこで学んだことが、今の研究と、大学・大学院での「移住論」ゼミや「アメリカ地域研究」などの講義につながっています。

 

日系二世の日本語・日本文化継承を調査

 

研究テーマは、19世紀末から戦後までの日系二世への日本語、日本文化、価値観の継承について明らかにすることです。また、1960年代に実施された日本人移民一世や日系人二世へのインタビュー音声記録のデジタル化と日英語目録作成を行っています。

 

前者については、戦前、二世が放課後に通っていた日本語学校で学んでいたこと、そして戦時中の強制収容所での日本語・日本文化継承について調べています。後者については、実際に録音を聞いてキーワードを検出し、目録化する作業です。

 

「埋もれた過去」を発掘

 

戦前・戦中というと、皆さんにとっては縁遠い歴史の断片にすぎないかもしれません。しかし、家系図をたどってみれば、海外に移り住んだ祖先を発見し、自分にも海外雄飛の血が流れていることに気づくかもしれません。

 

異郷に生活圏を移し、やがて子どもができた時に、どのようにして母語、母文化を伝えていくかということが大きな問題となります。

 

私の研究は、当時の新聞記事や日本語教科書、インタビュー記録などを通して「埋もれた過去」を掘り起こすことにあります。地味な作業ですが、少しずつ当時のことが明らかになっていく、興味のつきないテーマです。

 

戦前にハワイで編纂された日本語教科書。

「布哇」とはハワイの漢字表記です。「修身」は今の道徳に相当する科目です。(Hawaii Japanese Center 所蔵)

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

国境を越えたヒト、モノ、カネの移動を前提とした「グローバリゼーション」が当たり前のように受け入れられてきました。しかし、世界的な新型コロナウイルス感染拡大によって、前提条件としての移動、あるいはそのあり方について考えさせられる状況になってきました。

 

文化人類学、歴史学、教育学、文学、言語学、社会学、経済学、政治学、環境科学、健康科学、情報科学等々、様々な学問領域を超えて、持続可能な地球と人類のために、多角的なアプローチでグローバリゼーションを考え直す課題を突きつけられているように思います。

 


 先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「「日系市民」と日本語教育-戦前・戦中期の米国西海岸を中心に」

詳しくはこちら

 

 どこで学べる?

「日本語教育」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

20.文化・文学・歴史・哲学」の「82.文学、美学・美術史・芸術論、外国語学」

 


 先生のゼミや授業では

ネット情報などの二次的情報を鵜呑みするのではなく、自分の目と足で確認することが大切だと伝えています。「移住論」ゼミではフィールド(資料館、公文書館等を含む)で得た一次資料やデータをもとに論文を書くように指導しています。「アメリカ地域研究」の講義では、『地図で読むアメリカ』(共著、朝日新聞出版)をもとにアメリカを10の地域に分けて、それぞれの地域の歴史、生活、価値観、経済状況などについて講義しています。

 

 もっと先生の研究・研究室を見てみよう

沖縄県金武町(きんちょう)役場にある、「沖縄移民の父」と称される當山久三(とうやまきゅうぞう)像の前で、

ゼミ生とともに。

 先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

 

(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2) 商社・卸・輸入

(3) マスコミ(放送、新聞、出版、広告)

 

◆主な職種

 

(1) 事業推進・企画、経営企画

(2) 人事・労務・研修、その他人事系専門職

(3) 大学等研究機関所属の教員・研究者

 

◆学んだことはどう生きる?

 

移民というテーマに心惹きつけられるということは、異文化や海外に関心があるということです。したがって、私のゼミには毎年、途中で留学したり留学から帰ってきたりするゼミ生がいます。そんな学生たちですから、卒業後は商社や航空業界、メディア関係、国際関係の仕事、例えばJICA(国際協力機構)などで活躍する学生が少なからずいます。また、大学院に進学し、さらに海外の大学で修士号や博士号を取得して、大学で教鞭をとっている卒業生もいます。

 

 先生の学部・学科は?

早稲田大学人間科学部は「環境」「健康福祉」「情報」の3つのキーワードからなる3学科で構成されています。私が所属するのは「人間環境科学科」です。「環境」は自然環境だけではなく社会的、文化的な環境も含まれます。学問の垣根を越えて、多角的な視点で「移民」や世界の「地域研究」について学びたいと思っている学生にとっては、最適の選択肢と言えるでしょう。

 

ゼミ合宿で「移民すごろく」を作成。すごろくは、中高生対象の移民学習教材として開発を試みたものです。

 

 中高生におすすめ ~世界は広いし学びは深い

アメリカ彦蔵

吉村昭(新潮文庫)

幕末に漂流し、アメリカ船に助けられた濱田彦蔵を描いた歴史小説です。アメリカでキリスト教の洗礼を受けて「彦蔵」から「ジョセフ・ヒコ」(Joseph Heco)となり、リンカーン大統領を含めた3代の大統領にも謁見した、数奇な経験の持ち主です。

 

「アメリカ彦蔵」は、その後アメリカ市民として幕末・維新の激動期の日本に帰国し、領事館通訳などを経て、日本で最初の新聞「海外新聞」を発行しました。漂流という運命を受け入れて、自らのアイデンティティに悩みながらも人生を切り開いていく力強い人間像に触れることができます。同じ著者による『大黒屋光太夫』、『戦艦武蔵ノート』もお薦めです。



紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム

ケネス・ルオフ、訳:木村剛久(朝日選書)

「紀元二千六百年」とは、神武天皇による建国からちょうど2600年とされた1940年のことです。大日本帝国では、万世一系をたたえる記念行事が多く催されていました。著者は当時の国民は「愛国的な展覧会を見に行き、史跡を訪れていた」と述べています。「印刷メディアや百貨店、鉄道会社といった非政府機関の働きかけも大きかった」とも述べています。

 

暗い時代だったと思われがちなこの年に、観光の側面から新たな光を当て、戦争へと突き進んでいった当時の社会心理を見事に描いています。



BILLY BAT(漫画)

浦沢直樹、長崎尚志(モーニングKC)

物語は関東大震災、下山事件、月面着陸、ケネディ大統領暗殺、9.11同時多発テロ事件等々、時空を超えて縦横無尽に展開します。主人公は、日系人漫画家ケヴィン・ヤマガタ。全20巻ですが、日米関係史に関心のある方にとっては一挙に読めてしまう漫画シリーズです。

 


 先生に一問一答

Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

イーグルス。『ホテル・カリフォルニア』が好きです。

 

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『アラビアのロレンス』、『フォレスト・ガンプ 一期一会』。

 

Q3.会ってみたい有名人は?

進化生物学者のジャレド・ダイアモンド。