最先端研究を訪ねて


【電子デバイス・電子機器】

レーザー

世界初!夢の新材料を使った、全く新しいレーザーの開発に成功

尾辻泰一先生

 

東北大学

工学部 電気情報物理工学科(工学研究科 通信工学専攻/電気通信研究所)

 

最先端テラヘルツ実験測定装置を前に、新入学生に研究現場を熱く説明中
最先端テラヘルツ実験測定装置を前に、新入学生に研究現場を熱く説明中

 

◆研究のきっかけは何ですか

 

21世紀における夢の材料として期待される炭素系の新材料、グラフェン。2004年にイギリスの2人の科学者により発見され、彼らはノーベル物理学賞を受賞しました。私は2005年にグラフェンと出会い、非常に特徴的なふるまいをする電子に注目し、研究を始めました。

 

そして2007年。新しいレーザーが実現できる可能性についての理論を、私たちのグループが世界で初めて発見、公表しました。この理論を基にしたその後の共同研究では、これまでの技術とはけた違いの性能を持ったレーザーが実現できることを、世界に先駆けて実証しました。そして、世界初となる実際のレーザー発振に成功しました。

 

 

◆その研究が進むと何が良いのでしょう

 

この新しいレーザーは、スマホで使われる無線の周波数帯よりも、1000倍広い周波数帯を使っています。今まで使われなかったこの未開拓の電磁波は、人体に対して安全であり、かつ他の電磁波にはないユニークな特徴を持っています。そのことから、X線に代わる透視・イメージング装置や超高速無線通信など、科学技術に様々な革新をもたらす可能性を秘めています。

 

私たちの成果は、この未開拓の周波数領域を産業応用に導くための、ブレークスルーをもたらすものです。このレーザーによって、情報通信技術が格段に進歩・発展し、超スマート未来社会が実現するでしょう。

 

 SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

未開拓周波数資源:科学技術の力でテラヘルツ電磁波を人類が自在に操れるようにすることで、情報通信や安心安全、農業、医薬等のあらゆる分野で新しいサービスの提供を可能とし、持続可能で明るい豊かな未来社会の実現に貢献します。

 


 この道に進んだきっかけ

電電公社電気通信研究所から教授として大学に着任された、澤本健一先生に巡り合えたことが、研究の道を志すきっかけとなりました。自動車部の活動に明け暮れた学部時代とは真逆の大学院生活。研究に没頭し、師はマンツーマンで量子力学、半導体物性、電磁気学、そして研究者としてのスピリットを叩き込んでくださいました。

 

縁あって、電電公社厚木電気通信研究所に入所(公社最後の入社年次、翌年に株式会社化、NTTとなる)。国際ジョイントベンチャー企業への出向、会社のクローズ、研究所復帰の辛苦を経て、光通信用超高速半導体集積回路の研究で世界を先導。その傍らで、全く新しい世界に挑みたく、研究論文を読み漁りました。

 

そして、転身のきっかけとなる衝撃的な論文に巡り合ったのです。気づけば「他人とは違うことをしなさい」という師の薫陶の通りに大学へ転じ、現在のテラヘルツ新原理デバイスの研究に転身しました。予想だにしない人生を歩み続けています。

 


 この分野はどこで学べる?

「電子デバイス・電子機器」学べる大学・研究者はこちら(※みらいぶっくへ)

 

その領域カテゴリーはこちら↓

15.エレクトロニクス・ナノ」の「57.電子デバイス系(ネット家電、ディスプレイ等)」

 


 もっと先生の研究・研究室を見てみよう
新材料グラフェンによるテラヘルツレーザートランジスタ試作素子(顕微鏡写真)とその実験測定装置(写真)、測定結果(グラフ)
新材料グラフェンによるテラヘルツレーザートランジスタ試作素子(顕微鏡写真)とその実験測定装置(写真)、測定結果(グラフ)
 学生はどんな研究を?

私たちが世界に先駆けて開発した新型レーザーでは、テラヘルツ波という未開拓の周波数帯を使っています。学生も加わり、このテラヘルツ波の周波数帯でどのようにレーザー発振を実現するのか、実験的な研究を行っています。最先端クリーンルーム内でのグラフェンレーザートランジスタ素子の製作や、製作した素子からのテラヘルツ波の発生・増幅に関する実験計測、さらにはテラヘルツ波デバイス応用に関する理論研究も行っています。

 

 OB/OGはどんなところに就職?

◆主な業種

 

・自動車・機器、その他の輸送用機械・機器

・重電系、電気機械・機器

・コンピュータ・情報通信機器

・半導体・電子部品・デバイス

・光学機器、精密機械・機器

・鉄鋼、金属製品

・ソフトウエア・情報システム開発

・通信

・電気・ガス・水道・熱器供給業

・交通・運輸・輸送

・大学・短大・高専等、教育機関・研究機関

・官庁、自治体、公的法人、国際機関等

 

◆主な職種

 

・基礎・応用研究・先行開発

・設計・開発

・生産技術(プラント系以外)

・システムエンジニア

・大学等研究機関所属の教員・研究者 

 

◆学んだことはどう生きる? 

 

・半導体製造装置メーカーにおいて、次世代型最先端の超微細加工プロセス製造装置の開発を牽引

・国家公務員上級職採用、特許庁にて特許を中心とする権利の分析・調査

 


 先生からひとこと

我が国は “Japan as No. 1”と言われ世界を牽引した1980年代〜90年代初頭を境にして、国際的地位の低下が続いてきた。しかし、ノーベル賞を受賞した青色LEDを始めとして、我が国の科学技術力に対する国際的な評価は高く、新材料、新原理、新デバイスの発見・開発も綿々と続いている。私の研究分野は、未来の明るい社会を拓く科学技術分野の核となることが期待されており、とても挑戦しがいがあります。

 

 先生の研究に挑戦しよう!

1.ボーア(Niels Bohr)の量子仮説 

 

「物質には、粒子的性質と波動的性質の2つの側面がある」。このマックス・プランク以来の量子仮説に対して、ボーアは 「物質波」という概念を新たに導入した。そして、電子が取り得るエネルギーは飛び飛びの値を有すること、つまりエネルギーの離散化(量子化)を表現することに、見事に成功した。その結果として、水素原子モデルを完成させた。この一連のプロセスを調べて、理解してみよう。

 

2.物質の電気的性質:絶縁体,半導体,導体

 

結晶中では、原子が一定の間隔で規則正しく周期的に配置している。そのような結晶中では、電子軌道がK殻、L殻、M殻というように飛び飛びのエネルギーしか取り得ない。このことは、1.の考察を通して理解することができる。

 

では、物質の電気的性質はどのように決まっているのだろうか。実は、この電子軌道間のエネルギー差(バンドギャップエネルギーという)によって、電気的性質(電流の流れやすさ)が支配されることを理解しよう。

 


 中高生におすすめ

新しい物性物理 物質の起源からナノ・極限物性まで(ブルーバックス)

伊達宗行

量子論、相対論の融合から始まった物性物理学によって、身の回りに存在するあらゆる物質の本質が明らかにされてきた。半導体、液晶、超伝導などの新物質を創り出し、ナノテクノロジー、極限の世界を切り開く物性物理学の最前線に迫る。



科学者になりたい君へ(14歳の世渡り術)(河出書房新社)

佐藤勝彦

宇宙は膨張を続けるという「インフレーション理論」の発見者として著名な宇宙物理学者が、自らが歩み、成長してきた人生を振り返りながら、いくつもの岐路を経て今日に至るまでに経験し、会得した人生観、自然観、思想観を、穏やかな口調で、曇りのないわかりやすい表現で語りながら、人として、科学者として、大切なことを説いてくれる名著。

 



 先生に一問一答

Q1.一番聴いている音楽アーティストは?

Stjepan Hauser(ステファン・ハウザー。チェリスト)

 

Q2.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『007 スペクター』『ラッシュ/プライドと友情』『ハドソン川の奇跡』『グラン・トリノ』

 

Q3.研究以外で楽しいことは?

ドライブ、自動車整備